森卓也

森 卓也

森 卓也（もり たくや、1933年 - ）氏は、日本のアニメーション研究において先駆的な役割を果たした人物であり、同時に映画、演芸、テレビドラマといった幅広い分野で精力的な評論活動を展開してきたことで知られています。作曲家・音楽評論家の森一也氏は実兄にあたります。

愛知県一宮市に生まれた森氏は、南山大学を1953年に中途退学した後、1956年から1979年までの長期間にわたり、尾西市役所（現在の愛知県一宮市の一部）に地方公務員として勤務しました。公務員としての職務を遂行する傍ら、彼は自身の情熱を注いだ執筆活動を継続しました。

森氏が日本の映像文化史において特に重要な足跡を残したのは、アニメーション研究の分野です。公務員生活を送っていた1963年、彼は雑誌『映画評論』に「動画映画の系譜」と題する画期的な論考を発表しました。これは、当時まだ学術的な研究対象として十分に認識されていなかった日本のアニメーションに、歴史的・体系的な光を当てる試みであり、国内におけるアニメーション研究の基礎を築くものとなりました。さらに、森氏は日本で初めて「アニメーション」という言葉をタイトルに冠した単著を出版し、この新しい表現形式に対する理解と関心を広める上で決定的な役割を果たしました。

彼は研究者としてだけでなく、多才な評論家としても活躍しました。映画、特にその歴史や様々なジャンル、演芸、そしてテレビドラマに至るまで、その評論の対象は多岐にわたり、深い造詣と鋭い分析眼で、これらの大衆文化を読み解きました。その活動は、日本における映像文化の多様な側面に光を当て、多くの読者や研究者に新たな視点を提供しました。

映像文化の発展への貢献は、評論活動にとどまりません。森氏は1964年度から2004年度までの長きにわたり、毎日映画コンクールの設けられたアニメーション賞の選考委員を務め、日本アニメーションの質の向上と評価に貢献しました。また、2016年度には文化庁映画賞を受賞するなど、その長年の功績は公的にも高く評価されています。

森氏の著作は多岐にわたります。代表的なものとしては、初期の研究をまとめた『アニメーション入門』（1966年）、ギャグアニメーションに焦点を当てた『アニメーションのギャグ世界』（1978年、後に『定本アニメーションのギャグ世界』として再刊）、共著や監修として参加した『世界アニメーション映画史』（1986年）といったアニメーション関連の著作があります。また、映画評論としては、『シネマ博物誌 : エノケンからキートンまで』（1987年）、『アラウンド・ザ・ムービー』（1989年）、『映画この話したっけ』（1998年）、『映画そして落語』（2001年）など多数の書籍を刊行しています。これらの著作を通じて、彼は自身の研究成果や評論を広く世に知らしめました。

さらに、森氏が長年にわたり収集してきた映画やアニメーションに関する貴重な資料の多くは、2023年に岐阜県羽島市にある羽島市歴史民俗資料館・映画資料館へ寄贈されました。これらの資料は、日本の映像文化史を研究する上で極めて価値の高い一次史料として、今後の研究に大いに活用されることが期待されています。

公務員として働きながら研究・評論活動を始め、日本のアニメーション研究を切り開いた森卓也氏は、多角的な視点から日本の映像文化に貢献し続けた、希有な存在と言えるでしょう。彼の著作や寄贈された資料は、今後も日本の映像文化研究にとって invaluable な財産であり続けるはずです。

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