森嶌昭夫

日本の法学者として知られる森嶌昭夫氏（1934年 - 2024年）は、不法行為法をはじめとする民事法分野の研究・教育に長年貢献し、名古屋大学名誉教授の称号を得た人物です。

1934年に現在の北朝鮮の平壌で生を受け、その後、東京都で育ちました。学問の道に進み、1958年3月に東京大学法学部を卒業しました。同年4月からは東京大学法学部助手として研究生活をスタートさせ、研鑽を積みました。1968年にはアメリカ合衆国に渡り、著名なハーバード・ロー・スクール大学院で学び、法学修士（LL.M.）の学位を取得しました。この海外での経験は、後の国際的な視野を広げる上で重要な契機となりました。

1961年4月、名古屋大学法学部の助教授に就任し、地方大学における法学研究の拠点形成に尽力しました。1971年4月には同大学の教授に昇任し、不法行為法研究の第一人者として多くの論文や著作を発表しました。1988年4月から1990年3月まで、名古屋大学法学部長として学部運営を担いました。さらに、1992年4月からは名古屋大学大学院国際開発研究科の教授を併任し、1994年4月からは同研究科長を務めるなど、開発途上国の法制度整備支援や国際協力に関する教育・研究体制の構築にも深く関わりました。こうした国際開発研究科での活動や、後述する海外での客員教授経験は、日本の法整備支援という分野において、森嶌氏が先駆的な役割を果たしたことを示しています。1996年4月に名古屋大学を定年退職し、名誉教授の称号が授与されました。

名古屋大学在職中および退職後も、国際的な学術交流を積極的に行いました。1976年7月から約1年間、再びハーバード大学で客員教授を務めたほか、1980年7月にはカナダのブリティッシュコロンビア大学、1991年2月にはオランダのライデン大学日本研究所でも客員教授として招聘され、各国の法制度に関する知見を深めました。これらの経験は、日本法の海外における位置づけや、比較法研究の重要性を再認識する機会となりました。

1996年4月からは上智大学法学部の教授として教壇に立ちました。翌1997年1月には環境科学会の会長に就任し、環境問題に関する学術研究の推進に貢献しました。また、1999年4月から2000年3月まで上智大学地球環境研究所の所長も務めるなど、専門分野である民事法に加え、地球環境問題という現代社会の喫緊の課題にも深い関心を示し、多角的な視点からの研究を主導しました。

学術活動と並行して、政府や社会の様々な要職を歴任しました。1998年4月から2007年3月までの約9年間、財団法人地球環境戦略研究機関（IGES）の理事長を務め、地球環境政策に関する国際的な研究活動を牽引しました。また、環境政策の重要な決定に関わる環境省中央環境審議会では、2001年1月から2004年12月まで会長として、政策立案に大きな影響力を行使しました。同時期には、内閣府の原子力委員も務め（2001年1月〜2004年1月）、エネルギー政策の根幹にも関与しました。中でも特筆すべきは、2002年7月から2014年6月までの長きにわたり、損害保険料率算出機構の理事長を務めたことです。この間、保険料率算出の適正化や透明性の向上に尽力し、日本の損害保険制度の健全な発展に貢献しました。その他、2005年以降も特定非営利活動法人日本気候政策センターの理事長や、資源エネルギー調査会電気事業分科会の委員などを務め、社会に対する提言を続けました。

研究者・教育者として、不法行為法を中心に多数の著作を残しました。単著として『不法行為法講義』があり、民法、子どもの事故、医療と人権、環境問題、製造物責任法など、幅広いテーマで多くの編著や共著を手がけています。また、アメリカ法律協会の『米国第3次不法行為法リステイトメント(製造物責任法)』の監訳を行うなど、海外の重要な法文献を日本に紹介する役割も果たしました。これらの著作は、日本の法学研究者や実務家に広く読まれ、学界・法曹界の発展に寄与しました。

長年の学術及び社会活動における功績が認められ、2013年11月には瑞宝中綬章を受章しました。師である加藤一郎氏の門下で学び、自身もまた多くの優れた法学者を育て上げました。明治大学名誉教授の新美育文氏などが森嶌氏の門下生として知られています。

2024年5月26日、病のため、居住していた名古屋市天白区の自宅にて89歳で逝去しました。日本の法学界、特に不法行為法研究、そして環境政策や損害保険制度など、社会の広範な分野に多大な貢献を残しました。

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