森川信号場

森川信号場について

北海道茅部郡森町にかつて存在した、運輸省（後の日本国有鉄道）函館本線の信号場、それが森川信号場です。第二次世界大戦中に輸送力増強のために設けられましたが、短い期間でその役目を終え廃止されました。現在は鉄道施設としては残っていませんが、その歴史は急勾配区間における輸送の苦労と、時代の変化による路線の変遷を物語っています。

函館本線のうち、駒ヶ岳駅から森駅に至る区間は、地形的な制約から特に勾配がきつい難所として知られていました。駒ヶ岳山頂方面から海岸沿いの森駅へ向かって約13キロメートルの距離を標高差を下るこの区間は、最大で16パーミルという急な下り坂が連続しており、線路は勾配を緩和するために3段階に分けて迂回する複雑な線形を描いていました。このような厳しい条件下での列車運行において、この区間には、1913年（大正2年）に開設された姫川信号場以外に、列車交換や待避を行うための設備がありませんでした。

太平洋戦争が開戦し、戦時体制下で物資や人員の輸送量が飛躍的に増加すると、単線区間である函館本線における列車交換能力の不足が輸送のボトルネックとなりました。この課題を克服し、輸送力増強を図るため、急勾配区間にも新たな信号場を設置する計画が進められます。その一環として、まず1943年（昭和18年）には、駒ヶ岳駅と姫川信号場の間に東山信号場が開設されました。これに続き、姫川信号場と森駅の間にも信号場を設けることが決定。1944年（昭和19年）2月1日、森川信号場は運輸通信省（当時）の管轄のもと、開設に至りました。森川信号場はスイッチバック構造を採用しており、特に勾配を上る函館方面行きの列車が、坂を登りきるために勢いをつけるための加速線が設けられていたのが特徴です。開設当時の状況について、『森町史』には旅客の乗降を扱っていた可能性が示唆されていますが、信号場という本来の機能から考えると、限定的な扱いであったと考えられます。位置としては、廃止時点において、函館本線の駒ヶ岳駅、東山信号場、姫川信号場を経て森駅に至る区間の中、姫川信号場と森駅の間に設けられていました。

しかし、森川信号場が開設されてからわずか約1年半後、戦況が厳しさを増す中の1945年（昭和20年）12月1日、軍川駅（現在の名称は大沼駅）と森駅を結ぶ新たな鉄道路線、通称「砂原支線」が開業しました。この砂原支線は、従来の函館本線の駒ヶ岳・姫川経由ルートと比較して勾配が緩やかであったため、特に重量の大きい貨物列車などが、より運転しやすい砂原支線経由で運行されるようになります。この輸送経路の変化により、旧線側の急勾配対策として設けられていた森川信号場の重要性は急速に低下しました。

結果として、森川信号場は砂原支線の開業と同日、1945年12月1日をもって廃止されることとなったのです。開業からわずか1年10ヶ月という短い歴史でした。同じく急勾配区間に設けられた東山信号場は、その後も形態を変えながら2017年まで営業を継続したのとは対照的に、森川信号場は戦後間もなく完全に姿を消し、旅客扱いが継続されることもありませんでした。

鉄道施設としての森川信号場は現存しませんが、その痕跡は一部に残されていました。例えば、2002年（平成14年）頃の調査では、かつて加速線として利用されていたスイッチバックの築堤が、約200メートルにわたって確認されています。短い期間ながらも、この地で列車の安全な運行を支えた歴史の証として、ひっそりと残されていたのです。森川信号場の歴史は、戦時下の輸送需要への対応策として誕生し、戦後の路線網の変化によってその役目を終えた、時代の波に翻弄された信号場の姿を今に伝えています。

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