森本公誠

森本公誠：仏教とイスラムの架け橋

森本公誠氏（1934年 - ）は、華厳宗の僧侶であり、同時にイスラム学の造詣が深い、稀有な学者です。文学博士の学位を持ち、2004年から2007年まで東大寺別当並びに華厳宗管長を務めた経歴を持ちます。現在は東大寺の長老として、後進の指導にあたっています。

激動の時代と東大寺への道

兵庫県姫路市に生まれた森本氏は、幼少期に父が軍務のため京城（現ソウル）に移住。龍山国民学校に通学します。その後、父の転勤に伴い広島へ移り住みました。通っていた中島国民学校は現在の平和記念公園の至近距離にあり、広島原爆投下という、歴史の大きな転換点を幼少期に経験することとなります。原爆投下4ヶ月前、再び招集された父と共に奈良へ転居。広島に残した友人らの多くを失った経験は、氏の生涯に大きな影響を与えたことでしょう。15歳で東大寺に入寺し、その後奈良女子大学附属高校を経て京都大学文学部を卒業しました。

学究の道とイスラム世界への関心

京都大学大学院文学研究科博士課程を修了後、1961年にはエジプト・カイロ大学に留学。イスラム文化圏に深く入り込み、イスラム教を学ぶ機会を得ます。1968年には京都大学より文学博士の学位を取得。その後、京都大学や大阪外国語大学などで講師を務め、並行して東大寺での活動に尽力しました。

東大寺における多様な役割

東大寺では、清凉院住職、東大寺図書館館長、学校法人東大寺学園の理事、執事長、華厳宗宗務長、大仏殿院主、そして上院院主と理事長を歴任。1999年から2000年には執事長と華厳宗宗務長を兼任するなど、東大寺運営に大きく貢献しました。2004年から2007年にかけては、第218世東大寺別当と華厳宗管長という要職を務め、華厳宗を率いました。退任後は長老として、東大寺の精神的支柱として活躍しています。その間、神仏霊場会の初代会長や東大寺総合文化センター総長も務めるなど、多岐に渡る活動を行っています。

学術研究と国際交流

森本氏の研究活動は多方面に及びます。特にイスラム研究においては、初期イスラム時代のエジプト税制史を研究した『初期イスラム時代エジプト税制史の研究』で日経・経済図書文化賞を受賞。イブン・ハルドゥーンの『歴史序説』の翻訳をはじめ、数多くのイスラム関連の著作を著し、日本におけるイスラム学の発展に大きく貢献しました。また、仏教とイスラム教の対話を積極的に推進し、国際的な交流にも尽力しています。

受賞歴と主な著書

森本氏の業績は数々の賞で認められています。日経・経済図書文化賞、圓山記念文化賞、全国日本学士会アカデミア賞、日本翻訳文化賞など、権威ある賞を受賞。主要な著書には、『初期イスラム時代エジプト税制史の研究』、『イブン・ハルドゥーン』、『世界に開け華厳の花』、『聖武天皇 責めはわれ一人にあり』、『東大寺のなりたち』、『東大寺奴婢集団のサバイバル　慈悲につつまれて』などがあり、その内容は学術的にも高く評価されています。

まとめ

森本公誠氏は、華厳宗の伝統を継承しながら、イスラム学への深い造詣と国際的な視野を併せ持つ、稀有な存在です。その生涯は、宗教を超えた学問的探求と国際交流への貢献の歴史であり、今後の仏教・イスラム交流においても大きな影響を与え続けるでしょう。

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