森本治吉

森本治吉：万葉集研究の泰斗と、歌人としての生涯

森本治吉は、明治33年(1900年)に熊本県熊本市に生まれ、昭和52年(1977年)に77歳で亡くなった日本の歌人にして国文学者です。文学博士の学位を持ち、二松学舎大学名誉教授の称号も贈られています。歌人としては、息子の妻である槇弥生子、孫である森本平といった家族も歌の道を歩んでいます。

彼の学問人生は、大正9年(1920年)、第五高等学校在学中に創刊した短歌雑誌『白路』から始まります。同時期に、有名な歌壇『アララギ』にも入会しました。『白路』という雑誌名は、当時の第五高等学校教授であった高木市之助による命名です。その後、東京帝国大学に進学し、佐佐木信綱、久松潜一、高木市之助といったそうそうたる学者たちから指導を受けました。

昭和4年(1929年)には二松学舎専門学校(後の二松学舎大学)の教授に就任し、教育者としての道を歩み始めます。昭和21年(1946年)には、戦後、『白路』を復刊し、主宰者として歌壇を牽引しました。昭和26年(1951年)に第一歌集『晩鐘』を発表、その後も『耳』『伊豆とみちのく』など多くの歌集を世に送り出しました。

学術面では、昭和27年(1952年)の上代文学会創設委員としての活動や、昭和33年(1958年)からの同会理事長としての貢献が特筆されます。日本風土学会理事、日本歌人クラブ理事なども務め、多方面で活躍しました。

森本治吉の研究は主に万葉集に焦点を当てています。万葉集に関する専門的な研究論文や、一般向けの解説書を数多く執筆し、その普及にも大きく貢献しました。代表的な著書には、『万葉集の芸術性』『万葉精粋の鑑賞』『人麿の世界』『高橋蟲麻呂』などがあり、独自の解釈に基づいた深い洞察を示しています。特に、『万葉集総索引』は彼の代表作の一つとして挙げられ、『国語国文学研究史大成　万葉集』にもその功績が記されています。

彼の最初の著書は、昭和7年(1932年)に澤瀉久孝氏との共著で出版された『作者類別年代順万葉集』です。昭和16年(1941年)には、半架空自叙伝である『万葉に生くる者』を発表しています。これらの著作は、森本治吉の万葉集研究の出発点、そしてその思想の一端を示すものです。

昭和50年(1975年)には駒澤大学より文学博士号を取得しています。昭和47年(1972年)には二松学舎大学を定年退職し、名誉教授となりました。昭和49年(1974年)には歌会始の召人を務めるなど、晩年まで精力的に活動しました。

昭和52年(1977年)1月12日、脳軟化症のため東京都杉並区の病院で逝去しました。戒名は「積学院治徳寿光居士」です。彼の死は、日本の歌壇と国文学界に大きな損失をもたらしました。しかし、彼の残した数々の業績は、これからも多くの人々に影響を与え続けるでしょう。彼の功績を称え、研究者、教育者、歌人として、日本の文化に多大な貢献をした人物として、森本治吉の名は長く記憶されることでしょう。

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