森永プラザビル

森永プラザビルは、東京都港区芝、JR田町駅のほど近くに位置した超高層建築物です。1973年に完成したこのビルは、地上約100メートルに達し、以降長きにわたり森永製菓と森永乳業の本社機能が置かれました。しかし、時代の流れとともに建物の老朽化が進み、2024年3月末をもってその役割を終え、解体されることが決定しています。将来的には、この地には新たな高層ビルが建設される計画が進められています。

歴史

森永の歩みは、1899年に現在の港区赤坂二丁目にあたる地で創業した「森永西洋菓子製造所」に始まります。事業の拡大に伴い、1903年には現在の赤坂三丁目に新工場を建設して拠点を移しますが、1907年 7月28日にこの工場が火災により焼失するという災難に見舞われます。新たな工場の建設地を月島の社有地で検討するものの、請負業者との間で問題が発生したため、急遽、寺島誠一郎伯爵との交渉により、現在の港区芝五丁目に位置する約1200坪の土地を取得しました。同年10月1日には、この芝田町（当時の地名）の新工場で稼働が開始されます。

芝田町工場は、1915年に品川御殿山にあった東京醤油の工場を買収して自社のキャラメル製造拠点（後の大崎工場、東京第二工場）としたことで、「東京第一工場」と称されるようになります。本社機能は、当初東京第一工場に隣接する3階建ての事務所に置かれていましたが、1922年には丸ノ内ビルヂングの1・2階に移転し、通りに面して「森永キャンデーストア」を開設するなど、都心部への進出を図ります。しかし、関東大震災後の経済不況や、塚口工場建設に伴う資金繰りの問題から、1926年には再び東京第一工場隣接の事務所へと本社を戻すこととなりました。

日中戦争の開始とともに日本の経済が好転し、森永製菓の業績も上昇カーブを描きます。これを受け、東京第一工場の敷地内に新たな本社ビルを建設する計画が立ち上がります。当初は地上5階・地下1階の規模が予定されていましたが、戦時下の資材統制などの影響を受け、建築許可が3階までに制限されたため、地上3階・地下1階の建物として1938年10月28日に完成しました。増築を前提とした設計のため、3階の屋上から鉄骨が突き出しており、「かんざしビル」という異名で呼ばれることになります。この「かんざしビル」の増築が決定したのは1953年で、1954年9月に地上6階建て、延床面積約6600m2の姿に生まれ変わりました。外壁には創業者森永太一郎ゆかりの佐賀県有田産の白色磁器タイルが用いられ、塔屋にはシンボルのエンゼルマークが飾られました。さらに1964年には、8階建ての別館（新館）も建設されています。

1969年春の株主総会で不動産事業やレジャー事業への進出を可能とする定款変更が行われ、1974年の創業75周年に向けた新たな本社ビル建設計画が具体化します。1970年6月には不動産事業部が新設され、同年12月には地鎮祭が執り行われました。ビルの管理・運営を担う森永開発株式会社もこの月に設立されています。建設地が国鉄（当時）田町駅前という交通の要衝であったこと、そして1・2階のロビーやエントランスホールを一般に開放する自由通路とし、低層部屋上には開放的な屋上庭園（この庭園が「プラザビル」という名称の由来となりました）を設けるなどの公共貢献性から特定街区の指定を受け、当時の東京都内で5番目の高さとなる高層ビルの建設が可能となりました。既存の本館、新館、クッキングスクール棟を解体しながら同時に新ビルを建設するという複雑な工法が採用され、約3年の歳月をかけて1973年8月に森永プラザビルが竣工したのです。

建築と施設

森永プラザビルの外観は、白色のタイル貼りの外壁に、黒色の縦に連なる窓が特徴的でした。ビル内には様々な施設が設けられていました。地下1階から地上2階にかけては、一般利用者も利用できる「森永エンゼル街」が広がり、飲食店や各種商店、さらには三菱UFJ銀行の支店なども入居していました。また、13階には森永乳業の社員食堂があり、同社だけでなく森永グループ各社やテナント企業の従業員、取引業者も利用できる開かれたスペースでした。立地は、JR山手線・京浜東北線の田町駅と主要幹線道路である国道15号（第一京浜国道）の間に位置し、国道15号の地下には都営地下鉄浅草線・三田線の三田駅がある、交通至便な場所でした。

主な入居企業

完成以来、森永製菓本社、森永乳業本社が長年置かれていました。その他にも、医薬品マーケティングデータの提供を行う日本アルトマークの本社（15階）などが入居していました。さらに、日本電気（NEC）もかつて日本電気本社ビルが完成するまでの期間、本社を構めていた時期があります。

建て替えと未来

2023年5月13日の取締役会において、ビルの老朽化を理由に建て替えが正式に決定されました。建て替え後の新しいビルの具体的な計画はまだ最終決定されていませんが、内閣府が公表した田町駅西口再開発計画の資料によると、地上約125メートル、23階建て（地下2階含む）のビルが建設される構想が示されています。この建て替えに伴い、森永グループの本社機能は移転を完了しています。森永製菓は2024年3月18日に森永芝浦ビルへ、森永乳業は同年3月11日に汐留シティセンターへと、それぞれ新たな拠点へ移りました。

森永プラザビルの解体工事は、2024年4月から2025年9月までの予定で進められています。新たな施設の竣工は2028年度、そして田町駅西口全体の再開発計画の完了は2033年度を目指しています。長年田町駅前の顔として親しまれてきた森永プラザビルは姿を消しますが、その跡地には時代に即した新たな建築物が生まれ、この地域の未来を担うことになるでしょう。

登場作品

テレビ番組では、BSフジの『ビルぶら!レトロ探訪』第16回（2023年1月31日放送）で取り上げられたことがあります。

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