森清右衛門

森清右衛門：日本の近代化を支えた実業家

森清右衛門(1859-1936)は、明治から昭和初期にかけて活躍した実業家であり、鉄道土木工事や人夫供給において卓越した手腕を発揮しました。代々続く人夫馬請負業「有馬屋」の十三代目として、数々の国家事業に携わり、日本の近代化に大きく貢献した人物として知られています。

華麗なるキャリアの始まり：台湾出兵から鉄道工事へ

江戸神田に生まれた清右衛門は、幼少期から漢籍や英学を学び、幅広い知識を身につけました。明治7年(1874年)の台湾出兵では、父に代わり、500名もの従軍人夫を率いて台湾に渡航する予定でしたが、長崎で父が帰国することになり、代わりに清右衛門が台湾へ向かいました。この経験が、後の彼の事業の礎となります。

帰国後、清右衛門は、明治15年(1882年)に日本鉄道の荒川橋梁工事で人夫の供給を請負い、鉄道工事への本格的な参入を果たします。明治22年(1889年)には家督を継ぎ、十三世清右衛門を襲名。日清戦争頃には屋号を「有馬屋」から「有馬組」へと改称し、事業の拡大を図りました。

難工事への挑戦と成功：北陸線と中央東線

明治26年(1893年)の北陸線敦賀～森田間の工事では、当時としては珍しいトンネル工事が含まれていました。この経験のない工事の入札にあたり、清右衛門は台湾出兵で知り合った元大倉組の橋本忠次郎に相談し、隧道工事の経験を持つ沢井市造を招き入れました。沢井の技術力によって入札を成功させ、工事を完遂。この成功は、清右衛門の技術力と人脈の広さを示すものです。

さらに、明治29年(1896年)には、当時国内最難関とされた中央東線笹子隧道の労働力供給を請け負い、明治35年(1902年)の完成時には、鉄道作業局長官から異例の賞状を受けるなど、その功績は高く評価されました。

組織化と海外進出：日本土木組合と海外事業

明治32年(1899年)には、鉄道請負業者の組織である日本土木組合が設立され、清右衛門は副頭取に就任。鹿島岩蔵らと共に日本の土木業界を牽引しました。北清事変や京義線の工事にも携わるなど、事業は拡大を続けました。しかし、日露戦争終結後には経営危機に見舞われ、事業整理を余儀なくされました。それでも、債権者の協力を得て、合資会社有馬組を設立し、事業を継続しました。

さらに、有馬組汽船部を設立し、海運業や貿易にも進出。大正8年(1919年)には台湾で造林業を行う台陽殖産株式会社の社長に就任するなど、事業は多角化していきました。また、長男の清太郎を代表とする朝鮮有馬組を設立し、朝鮮半島にも進出しています。

政治活動と多様な才能

清右衛門は、東京府会議員を務めるなど、政治活動にも関与しました。豆相人車鉄道や横浜電気鉄道の取締役も務めるなど、その活動は多岐に渡ります。

私生活では、茶道や囲碁、和歌をたしなみ、教養豊かな人物であったことが伺えます。

家族・親族：著名人の系譜

清右衛門の家族や親族にも、数々の著名人がいます。長男の清太郎は有馬組の十四代目当主となり、三男の鷹三は東京帝大法科を卒業後、ロンドン大学やリーズ大学で学び、国際軍事監督委員としてドイツに赴任しました。

清右衛門には複数の養女がおり、その中には、飛行家のバロン滋野の妹である足子や、東京府士族の妹であるハナなどが含まれます。姉の夫は陸軍大将の山口素臣でした。

まとめ：日本の近代化を支えた清右衛門の生涯

森清右衛門は、数々の困難を乗り越え、卓越した手腕と人脈によって事業を拡大し、日本の近代化に貢献した偉大な実業家でした。その生涯は、日本の近代史を語る上で欠かすことのできない重要なものです。

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