森田康

森田康：日本経済新聞を育てた男

森田康（もりた こう）は、1924年11月30日に生まれ、1998年8月26日に亡くなった日本のジャーナリスト、実業家です。日本経済新聞社（日経）の代表取締役社長として、その発展に大きく貢献しました。

生い立ちと日経との出会い

広島県広島市で生まれ、旧満州で育った森田は、旧制広島高等学校を経て東京帝国大学経済学部を卒業しました。大学時代にはGHQ関連のアルバイトをしており、そこで日経の記事の質の高さを知ることになります。GHQ担当の将校が、朝刊から選んだ記事を英訳する仕事で、選ばれる記事のほとんどが日経の記事だったのです。アメリカ人から日経の「紙価」を教えられたことがきっかけで、森田は日経への入社を決意します。

1947年秋、新聞記者を募集していたのは日経と東京新聞だけでした。東京新聞の方が給与も高く羽振りも良かったにもかかわらず、森田は迷わず日経を選びました。

日経での活躍

ニューヨーク特派員を経験後、36歳で大阪経済部長、40歳で編集局次長と順調にキャリアを重ねます。当時の社長であった圓城寺次郎は、日経を「新聞だけ」の会社から、コンピュータを軸にデータを売る「新聞も」出す会社へと変革しようとしていました。森田はデータバンク事業において、マーケティング戦略の立案から実戦指導まで陣頭指揮を執り、その推進役として活躍しました。1970年には取締役に選任され、電算機本部長を委嘱、1974年には常務・社長室長兼電算機本部長に就任しました。

1975年にデータバンク局が新設されると、リアルタイムのニュースを配信する「日経NEEDS」（後の日経テレコン21）や、株価と株式に関する経済情報を配信する「QUICK」などの事業を立ち上げ、軌道に乗せました。これらの事業は、現代の金融情報サービスの先駆けとも言えるものでした。

1979年に専務、1982年には社長に就任。全国各地での現地印刷を開始するなど、積極的な経営戦略で日経を急成長させました。

リクルート事件と辞任

しかし、1988年にリクルート事件に連座し、社長を辞任することになります。リクルート創業者の江副浩正は大学の後輩であり、ダンス仲間でもありました。森田は、江副から依頼され、リクルートコスモス（現：コスモスイニシア）の未公開株を購入しました。この未公開株の譲渡による売却益が発覚し、批判を浴びることになったのです。

日経には、記者には上場企業の株式の所有を禁じる内規がありました。そのため、コスモス株を譲り受け、売却益を得たことが辞任の理由となりました。この事件は、政界、経済界、官僚、大学教授など、多くの人物を巻き込む大事件となりました。

江副は、森田の辞任を非常に悔やみ、「死ぬまで森田さんに顔向けできない」と語ったとされています。森田の辞任後、江副自身もリクルートとコスモスの会長を辞任しました。

その後

1998年8月26日、森田康は心不全のため73歳で亡くなりました。2001年には、その功績が認められ、電通から「マスコミ功労者顕彰」が追贈されました。

森田康は、日経を単なる新聞社から、情報産業へと転換させた功労者として、その名は記憶されるべきでしょう。彼の先見性と行動力が、現代の日本経済新聞の礎を築いたと言っても過言ではありません。

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