植村・海老名キリスト論論争

植村・海老名キリスト論論争

植村・海老名キリスト論論争は、日本基督教会の指導者であった植村正久と、日本組合基督教会の指導者であった海老名弾正の間で、1901年に行われたキリスト論に関する論争です。

論争の経緯

この論争は、1901年9月に植村正久が『福音新報』に発表した「福音同盟会と大挙伝道」という記事がきっかけとなりました。この記事に対し、自由主義神学の立場を取っていた海老名弾正が、同年10月に『新人』で「福音新報記者に与ふるの書」を発表し、論争が勃発しました。

論争の内容

論争の焦点は、キリストの神性に関する解釈の違いでした。植村は、イエス・キリストを神であると明確に信じる福音主義の立場を主張しました。一方、海老名は、キリストの神性をより柔軟に解釈する自由主義神学の立場を擁護しました。

論争の影響

この論争は、当時の日本のキリスト教界に大きな影響を与えました。1902年の福音同盟会総会では、「本同盟が福音主義と認める物は聖書を以って信仰と行為の完全なる規範とし、人とその救いのために世に降り給える吾等の主イエス・キリストを神と信じるものを言う」と宣言され、海老名は福音同盟会から追放されることとなりました。

しかし、この論争は、福音主義全体に関するものではなく、あくまでキリスト論に焦点を当てたものでした。論争後、日本基督教会は、植村の立場を支持する東京神学社と、より保守的な神戸神学校に分裂することになります。また、植村自身は言語霊感を否定しており、自由主義神学に十分に対処できなかったという指摘も存在します。

当時の福音同盟会会長であった本多庸一は、友人であった海老名を追放したことに対して責任を感じ、会長を辞任しました。また、内村鑑三は、この論争について「神学上では植村を支持するが、心情においては、深く海老名に服す」と述べています。

論争の意義

植村・海老名キリスト論論争は、日本のプロテスタント教会における神学的な議論を活性化させる上で重要な役割を果たしました。この論争を通じて、日本のキリスト教界は、キリスト論に対する理解を深め、それぞれの立場を明確化していきました。また、この論争は、その後の日本のキリスト教の発展に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

参考文献

渡瀬常吉 『海老名弾正先生』 龍吟社、1938年
佐波亘 『植村正久と其の時代』 教文館、1938年
『植村正久著作集』 1966-67年
小野静雄 『日本プロテスタント教会史』 聖恵授産所出版部
中村敏 『日本キリスト教宣教史』 いのちのことば社
宇田進 『福音主義キリスト教と福音派』 いのちのことば社
尾形守 『日韓教会成長比較』
沖田行司編 『新編 同志社の思想家たち 上』 晃洋書房、2018年　ISBN 9784771030558
* 關岡一成 『海老名彈正関係資料』 教文館、2019年　ISBN 9784764274327

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