椴法華村

椴法華村：消えた小さな漁村の物語

2004年、北海道函館市に編入された椴法華村。太平洋に面したこの小さな村は、かつて道内で最小の面積を誇る自治体でした。恵山という活火山がそびえ立ち、変化に富んだ海岸線、そして豊かな自然に恵まれた地で、人々は静かに暮らしていました。この記事では、その歴史と魅力を紐解きます。

風光明媚な地理

渡島半島の南東端、亀田半島の東端に位置する椴法華村。東には太平洋に突き出た恵山岬があり、その絶景は多くの観光客を魅了しました。岬の近くには標高618mの恵山がそびえ立ち、海岸線には水無海浜温泉が湧出。村域の8割は山林で、平地は少なく、海岸沿いに集落が点在する独特の景観を呈していました。中心市街地は、矢尻川と八幡川の河口部にある浜町と八幡町（現・函館市新浜町、新八幡町）でした。また、椴法華漁港のある元村（現・元村町）や、遠浅の砂浜が広がりサーフィンで賑わう銚子（現・銚子町）など、多様な表情を見せる海岸線が特徴的です。

村名の由来と歴史

村名は、アイヌ語の「トゥポㇰケ（tu-pok-ke）」に由来し、「山の走り根の下の所」を意味します。恵山の山裾に位置する村の地理的特徴を表していると言えるでしょう。1919年（大正8年）、茅部郡尾札部村から分村して誕生。2003年には函館市など周辺町村との合併協議会が発足し、翌2004年12月1日、函館市に編入合併されることとなりました。合併に先立ち「閉村式」が執り行われ、長い歴史に幕を閉じました。

漁業を基盤とした経済

椴法華村の経済は、古くから漁業が中心でした。津軽海峡と千島海流の交わる好漁場であるため、スルメイカ、ホッケ、スケトウダラ、コンブなど、豊富な水産資源に恵まれていました。漁業従事世帯は減少傾向にありましたが、2000年時点でも全世帯の3割を占めていました。水産加工業も盛んであり、地域経済を支えていました。一方、林業は村の森林資源を生かした小規模なものが行われ、農業は平地の少なさから自給的な規模にとどまっていました。観光資源も豊富で、銚子ビーチ、恵山登山、水無海浜温泉、恵山岬灯台などは、村の規模をはるかに超えた魅力を有していました。そのため、第3次産業の比率は周辺町村に比べて高くなっていました。

教育・行政・交通

村には中学校と小学校が1校ずつありました。村役場は浜町に置かれ、編入後は函館市役所の椴法華支所として行政サービスが提供されています。交通面では、村内を鉄道が通っておらず、最寄りの駅はJR函館本線函館駅でした。バスは函館バスが運行していましたが、かつては相互自動車が函館との間を運行していました。道路は国道278号が通っていました。

名所旧跡と文化

椴法華村には、恵山、恵山道立自然公園、恵山岬など、多くの観光スポットが存在していました。これらの自然資源は、村の歴史と文化を形作り、人々の生活に深く関わってきました。また、地元出身の有名人として、山本鉄弥氏（元北海道知内高等学校野球部監督）が知られています。

終わりに

消滅した自治体ではありますが、椴法華村の歴史と文化は、函館市の歴史の一部として、そして人々の記憶の中に大切に受け継がれています。かつてこの地で生活していた人々の営み、そして豊かな自然が織りなす景観は、これからも人々の心に残り続けることでしょう。 その歴史を振り返ることで、現代社会における地域社会のあり方について、改めて考える機会を与えてくれるのではないでしょうか。

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