楊靖

楊靖（よう せい）

楊靖（1360年 - 1397年）は、明代初期に活躍した官僚・政治家です。字は仲寧といい、本貫は淮安州山陽県にありました。

生涯

1385年（洪武18年）、進士に合格し、庶吉士に選ばれて官僚としてのキャリアをスタートさせました。吏科での試用期間を経て、翌年には戸部侍郎に抜擢され、その才能を早くから認められました。

当時の官僚社会では、進士や太学生出身者による法令違反が頻発しており、洪武帝はこれに対し強い危機感を抱いていました。そこで、皇帝は「大誥」を発布し、蔡瑄、茹瑺、秦逵、そして楊靖の名前を挙げて、他の官僚たちの模範とするよう訓示しました。このことから、楊靖が初期から皇帝の信頼を得ていたことが伺えます。

1389年（洪武22年）には、戸部尚書という要職に昇進しました。さらに翌年5月には、刑部尚書に転任し、司法行政の長として辣腕を振るいました。同年12月、洪武帝は刑罰に関する新たな方針を示し、「十悪」と殺人の罪を犯した者のみを死刑とし、その他の犯罪者は北辺への食糧輸送に従事させるよう楊靖に命じました。この改革は、刑罰の厳格化を緩和しつつ、労働力を有効活用する目的があったと推測されます。

ある時、楊靖は武官の取り調べ中に、その身体検査で大珠を発見しました。周囲が驚く中、楊靖は「これは偽物だ。このような者が本物を持っているはずがない」と断じ、その場で粉砕しました。この一件を聞いた洪武帝は、楊靖の判断には「四善」があるとして、その洞察力と公正さを高く評価しました。

1393年（洪武26年）には、太子賓客を兼任しましたが、事件に連座して一時免職となりました。しかし、その能力はすぐに再評価され、1395年（洪武28年）には、龍州の趙宗寿討伐における食糧輸送のため、安南（陳朝）へ派遣されました。安南側の相、黎一元は陸路での輸送困難を理由に難色を示しましたが、楊靖は水路での輸送を提案し、黎一元は粟2万を輸送しました。さらに楊靖は、沱海江に浮橋を建設し、龍州までの輸送路を確保しました。

1397年（洪武30年）4月、楊靖は左都御史に任じられ、監察機関の長として、再び中央政界で重要な役割を担うことになりました。しかし、同年7月、郷里の住民の冤罪を訴えたことで、御史からの弾劾を受け、洪武帝の怒りを買い、死を賜りました。享年は38歳でした。

楊靖は、その短い生涯の中で、戸部尚書、刑部尚書、左都御史といった要職を歴任し、明代初期の政治と社会に大きな影響を与えた人物です。彼の公正な判断力と、困難な状況においても打開策を見出す能力は、特筆に値します。しかし、最後は、郷里の住民を救おうとした行動が災いし、悲劇的な結末を迎えることとなりました。

参考資料

* 『明史』巻138 列伝第26

もう一度検索