楡 (橘型駆逐艦)

駆逐艦「楡」：激動の艦歴を辿った軍艦

日本海軍の駆逐艦「楡」は、その艦名のとおり、ニレ科の樹木に由来しています。橘型（改松型）駆逐艦の2番艦として、舞鶴海軍工廠で建造されました。興味深いことに、艦名「楡」は、樅型駆逐艦にも存在しており、「楡」は2代目にあたります。

竣工後、「楡」は訓練部隊である第十一水雷戦隊に所属し、瀬戸内海で訓練に励みました。その後、第三十一戦隊第五十二駆逐隊に編入され、実戦への備えを進めます。しかし、運命の歯車は既に回り始めていました。

1945年（昭和20年）6月22日、呉港に停泊中の「楡」は、アメリカ軍のB-29爆撃機による空襲を受けました。爆弾は缶室に直撃し、機械室にも甚大な被害を受けました。この攻撃により、25名の戦死者を出したほか、速力は17ノットまで低下、戦闘能力は大きく損なわれました。

深刻な損傷を受けた「楡」は、7月15日付で第五十二駆逐隊から除かれ、特殊警備艦に類別変更されました。乗員は「樺」に移乗し、「楡」には僅かな保安員を残して、乗員不在のまま終戦を迎えることとなります。その後、10月15日に除籍されました。

戦後、「楡」は呉で浮桟橋として使用されましたが、1948年（昭和23年）1月より、播磨造船呉ドック（旧呉海軍工廠）で解体作業が始まり、同年4月20日に解体完了しました。わずか数年で、その生涯を終えたのです。

「楡」の艦長については、外山操氏の『艦長たちの軍艦史』によれば、艤装員長として下田隆夫少佐が1944年12月25日から、駆逐艦長として1945年1月31日から7月15日まで務めたことが確認できます。7月15日以降は、「樺」への異動により退艦したとされています。

このように「楡」の艦歴は、短期間ながらも激動の時代を象徴するものでした。瀬戸内海の穏やかな訓練から、呉港での悲劇的な空襲、そして終戦後の静かな解体。その短い生涯は、太平洋戦争の激しさ、そして儚さを私たちに伝えています。

参考文献

海軍歴史保存会『日本海軍史 第7巻』第一法規出版、1995年
片桐大自『聯合艦隊軍艦銘銘伝』光人社、1993年
木俣滋郎『日本水雷戦史』図書出版社、1986年
外山操『艦長たちの軍艦史』光人社、2005年
「歴史群像」編集部『歴史群像太平洋戦史シリーズVol.43 松型駆逐艦』学習研究社、2003年
アジア歴史資料センター（公式）（防衛省防衛研究所）
『昭和19年6月1日～昭和20年6月30日　第11水雷戦隊戦時日誌（6）』。
『昭和19年6月1日～昭和20年6月30日　第11水雷戦隊戦時日誌（7）』。

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