極付印度伝 マハーバーラタ戦記

極付印度伝 マハーバーラタ戦記：歌舞伎による壮大な叙事詩の世界

『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』は、世界最長の叙事詩と称されるインド神話『マハーバーラタ』を、歌舞伎という伝統芸能の枠組みを通して表現した、壮大な作品です。全10万詩節にも及ぶ原典を、約4時間に凝縮した舞台は、そのスケール感とドラマ性に満ち溢れています。

本作の最大の特徴は、主人公にカルナ王子を選んでいる点にあります。マハーバーラタにおける主要人物の一人であるカルナは、数奇な運命を辿る魅力的なキャラクターであり、歌舞伎ならではの表現力によって、その複雑な内面や生き様が見事に描き出されています。

この歌舞伎化の発案は、五代目尾上菊之助によるものです。2014年に静岡県舞台芸術センター（SPAC）で上演された宮城聰演出の『マハーバーラタ～ナラ王の冒険～』を観劇したことがきっかけとなり、宮城聰氏との相談を経て、本格的な企画がスタートしました。宮城聰氏は、2014年7月にフランスのアヴィニョン演劇祭で同作品を上演しており、菊之助氏が観劇したのはその凱旋公演でした。

舞台演出は、宮城聰氏によるもの。インドの伝統舞踊劇「カタカリ」の衣装要素を取り入れた衣装は、高橋佳代氏のデザインです。高橋氏は多数の宮城聰作品を手掛けており、本作の衣装についても「インドの神が日本に渡ってくるまでの変遷で、ちょうどいいところを探り」制作されたと語っています。

舞台美術、音楽、そして演出は、インドの文化と日本の伝統芸能が融合した、独特の世界観を創り出しています。神々の住まう場所から戦場まで、様々な場面が鮮やかに表現され、観客を古代インドの世界へと誘います。

2017年、芸術祭十月大歌舞伎の昼の部として初演された本作は、平成29年度文化庁芸術祭参加公演、日印友好交流年記念、インド大使館後援という、特別な企画として上演されました。その後、2023年には歌舞伎座新開場十周年記念公演として再演され、多くの観客を魅了しました。

配役は、初演時のものを基準としています。脚本は青木豪、演出は宮城聰、そして五代目尾上菊之助を始めとする、実力派俳優陣が名を連ねています。音楽も、伝統的な歌舞伎音楽と現代的な音楽が融合し、劇の雰囲気を高めています。

公演の様子は、CS放送チャンネル「衛星劇場」で放送されたほか、「歌舞伎　特選DVDコレクション」にも収録されています。2023年の公演では、中村芝のぶの演技が第31回『読売演劇大賞優秀男優賞』および『審査委員特別賞』を受賞するなど、高い評価を受けています。

『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』は、単なる歌舞伎の演目という枠を超え、インド文化への理解を深め、日本の伝統芸能の新たな可能性を示唆する、重要な作品と言えるでしょう。その壮大な物語と、歌舞伎の洗練された表現力によって生み出される世界観は、観る者の心を深く揺さぶる、忘れられない体験となるはずです。

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