榎 (楢型駆逐艦)

榎 (初代)

「榎」は、大日本帝国海軍が運用した駆逐艦であり、その中でも楢型駆逐艦として計画・建造された艦隊の一隻です。同型艦の中では6番目に竣工した船として知られています。後に、同じ「榎」という名を冠する駆逐艦が別に就役したため、区別を明確にするためにこの艦は「榎 (初代)」あるいは「榎I」と表記されることがあります。

艦艇としての歩み

本艦の建造は、1917年（大正6年）10月1日に舞鶴海軍工廠にて開始されました。これは「榎」という船体が形作られ始めた記念すべき日です。約半年後の1918年（大正7年）3月5日午後3時には、その姿を整えた船体が無事に水面へと進み出ました。そして、さらに約2ヶ月を経た同年4月29日には、全ての艤装工事が完了し、駆逐艦「榎」として正式に竣工を迎え、日本の海軍に加わりました。

就役後の「榎」は様々な任務にあたりました。特に、1925年（大正14年）5月に日本列島を襲った北但馬地震に際しては、救援活動のために重要な役割を担いました。当時、本艦は舞鶴港に停泊していましたが、被災地への緊急支援のため直ちに派遣が決定され、急派されました。被災地の兵庫県に近い津居山港沖合に到着すると、そこに碇泊し、救援部隊の輸送拠点となりました。本艦から上陸した陸戦隊約100名は、特に被害が大きかったとみられる城崎町へと向かい、救援活動に従事しました。「榎」は、災害時における海軍艦艇の機動性を活かした支援の一例を示しました。

時代が進み、本艦はその役割を変化させていきます。1930年（昭和5年）6月1日には、駆逐艦から掃海艇へと艦種が変更されました。これに伴い、その名称も正式に「第十号掃海艇」となりました。これはすでに同名の掃海艇が存在していたため、区別のため「二代」と付記されることもあります。掃海艇として、海域の安全確保に貢献しました。

さらに年月が経過し、1936年（昭和11年）4月1日には、軍艦籍から外されて雑役船へと編入されることになります。この時期には、「麗女」（うるめ）という非公式ながらも新たな船名で呼ばれることもありました。艦としての最前線の任務からは退きましたが、引き続き海軍を支える船として用いられました。

最終的に、「榎」の船体は1940年（昭和15年）に海軍から正式に除籍されました。同年4月1日には、「廃駆逐艦第21号」という仮称が付与されています。しかし、その船体は単に廃棄されることはありませんでした。艦としての現役生活を終えた後も、その頑丈な構造は活用されることになり、最終的には呉海軍工廠の魚雷実験部において、波浪を防ぐための防波堤として転用されました。これは、軍艦の船体がその役目を終えた後も、別の形で国の施設に貢献した興味深い事例と言えるでしょう。

本艦の歴史を通じて、多くの艦長や掃海艇長がその指揮を執りました。彼らの尽力もまた、「榎」の艦歴の一部をなしています。

駆逐艦「榎 (初代)」は、その誕生から北但馬地震における救援活動、掃海艇や雑役船への転籍、そして最終的に防波堤となるまで、大日本帝国海軍の歴史の一頁を飾った艦艇でした。

もう一度検索