樅型駆逐艦

樅型駆逐艦：日本海軍を支えた21隻の艦艇

はじめに

大日本帝国海軍の主力艦艇として活躍した樅型駆逐艦。本稿では、その建造計画から太平洋戦争での運用、そして各艦の辿った運命までを詳細に解説します。21隻もの同型艦が建造された樅型駆逐艦は、日本海軍の技術力と運用戦略を反映した重要な存在でした。

建造計画と艦型

樅型駆逐艦は、大正6年度（1917年）の八四艦隊完成計画と、翌年の八六艦隊完成計画に基づいて建造されました。当初の計画では18隻の建造が予定され、その後、さらに16隻の2等駆逐艦が計画され、そのうちの3隻が樅型駆逐艦となりました。残りの艦艇は若竹型駆逐艦として建造されました。建造は1918年から始まり、1922年にかけて竣工しました。

設計においては、一等駆逐艦である峯風型駆逐艦と並行して行われ、峯風型の小型版と言えるでしょう。船体形状は峯風型駆逐艦と類似しており、兵装は主砲が1門、魚雷発射管が1基少ないものの、36ノットという高い速力を達成しました。峯風型駆逐艦の39ノットには及ばないものの、これは当時としては高い性能でした。

桃型や楢型駆逐艦で問題となっていた凌波性を改善するため、樅型駆逐艦は峯風型と同様に艦橋前にウェルデッキを設けました。また、主砲3門は全て上甲板より一段上に配置され、高波の中でも砲撃が可能となりました。さらに、二等駆逐艦としては初めて53cm魚雷を搭載したことも特筆すべき点です。

機関においては、3基のボイラー全てを重油専焼とし、石炭燃焼艦に比べて夜戦における被発見率を低減しました。また、二等駆逐艦としては初めてオールギアードタービンを採用し、計画常備排水量は850トン（英トン）でしたが、実際には若干超過していました。この排水量の増加は速力に影響を与え、後の若竹型では計画排水量が900トンに増量されました。

多様なタービンと技術革新

樅型駆逐艦の主機であるタービンは、建造された時期や造船所によって様々な形式が採用されました。最初の8隻のうち4隻にはブラウン・カーチス式タービン、残りの4隻には三菱造船所が独自設計したタービンが搭載されました。三菱設計のタービンは故障が多かったことから、続く7隻には再びブラウン・カーチス式が採用されました。

その後期建造艦では、イギリスのキャメル・レアード社製のパーソンズ式、ジョン・ブラウン社のブラウン・カーチス式、そしてドイツのエッシャーウィス社製のツエリー式タービンが搭載され、実艦での比較実験が行われました。これらの実験は、日本のタービン技術の発展に貢献しました。

運用と太平洋戦争

21隻もの同型艦が建造された樅型駆逐艦は、竣工後は第一艦隊の直衛任務に長期間従事しました。太平洋戦争開戦時には、多くの艦艇が哨戒艇や練習艦などに転籍していましたが、一部の艦艇は駆逐艦籍を維持し、船団護衛任務などで活躍しました。

各艦の生涯

以下に、樅型駆逐艦21隻の起工、進水、竣工日、そしてその後の経歴を記します。各艦の詳細は、それぞれの項目を参照してください。

樅: 1918年12月23日起工、1919年12月27日竣工、1932年除籍、1936年標的艦
榧: 1918年12月23日起工、1920年3月28日竣工、1940年除籍
楡: 1919年9月5日起工、1920年3月31日竣工、1940年練習船、1945年特攻母艦、戦後解体
栗: 1919年12月5日起工、1920年4月30日竣工、1945年触雷沈没
梨: 1918年12月2日起工、1919年12月10日竣工、1940年除籍
竹: 1918年12月2日起工、1919年12月25日竣工、1940年除籍、練習船
柿: 1919年2月27日起工、1920年8月2日竣工、1940年除籍、練習船
栂: 1919年3月5日起工、1920年7月20日竣工、1945年航空機攻撃により戦没
菊: 1920年1月20日起工、1920年12月10日竣工、1940年哨戒艇、1944年航空機攻撃により戦没
葵: 1920年4月1日起工、1920年12月20日竣工、1940年哨戒艇、1941年擱座
萩: 1920年2月28日起工、1921年4月20日竣工、1940年哨戒艇、1941年擱座
薄: 1920年5月3日起工、1921年5月25日竣工、1940年哨戒艇、1944年空爆により沈没
藤: 1919年12月6日起工、1921年5月31日竣工、1940年哨戒艇
蔦: 1920年10月16日起工、1921年6月30日竣工、1940年哨戒艇、1942年航空機攻撃により戦没
葦: 1920年11月15日起工、1921年10月29日竣工、1940年除籍、練習船、特攻母艦
菱: 1920年11月10日起工、1922年3月23日竣工、1940年哨戒艇、1942年交戦沈没
蓮: 1921年3月2日起工、1922年7月31日竣工
菫: 1920年11月24日起工、1923年3月31日竣工、1940年除籍、練習船
蓬: 1921年2月26日起工、1922年8月19日竣工、1940年哨戒艇、1944年雷撃により戦没
蕨: 1920年10月12日起工、1921年12月19日竣工、1927年衝突沈没
蓼: 1920年12月20日起工、1922年7月31日竣工、1940年哨戒艇、1943年雷撃により戦没

駆逐隊の変遷

樅型駆逐艦は、主に4隻ずつの駆逐隊を編成しました。ただし、菊と葵は江風型駆逐艦と共に第十四駆逐隊を編成するなど、編成は時代や状況によって変化しました。それぞれの駆逐隊の変遷については、各駆逐隊の項目で詳述します。

参考文献

本稿の記述は、以下の文献を参考に作成しました。

海軍省 編『海軍制度沿革』
海軍歴史保存会『日本海軍史』
片桐大自『聯合艦隊銘銘伝』
『日本駆逐艦史』
世界の艦船 No. 507 増刊第45集 『日本海軍護衛艦艇史』
(社)日本造船学会 編『昭和造船史』
日本舶用機関史編集委員会/編『帝国海軍機関史』
福井静夫『写真集』『写真 日本海軍全艦艇史』
防衛庁防衛研修所戦史室『海軍軍戦備』
堀元美『駆逐艦 その技術的回顧』
牧野茂、福井静夫 編『海軍造船技術概要』
雑誌「丸」編集部『写真 日本の軍艦』
アジア歴史資料センター

結論

樅型駆逐艦は、日本海軍の技術力と運用戦略を示す重要な艦艇群でした。21隻もの同型艦が建造されたことは、その信頼性の高さを示しており、太平洋戦争における活躍は、その実力を証明するものでした。本稿が、樅型駆逐艦の歴史を理解する上で役立つことを願っております。

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