樋口健二

樋口健二：社会の暗部を照らす報道写真家

樋口健二（ひぐちけんじ、1937年 3月10日 - ）は、日本の報道写真家です。高度経済成長の陰で生じた公害、炭鉱や原子力発電所での労働災害、戦争の犠牲者など、社会の暗部を鋭く捉え、その実態を告発してきました。彼の作品は、常に弱者や一般の人々の視点に立ち、歴史的真実を追求する姿勢を貫いています。

公害、労働災害、そして原発事故

樋口の初期の代表作の一つが、四日市ぜんそくを始めとする公害問題を扱った作品です。彼は、汚染された環境の中で苦しむ人々の姿をカメラに収め、その惨状を社会に訴えました。また、炭鉱における労働災害や、原子力発電所における放射能による被曝問題にも取り組みました。特に原発事故に関する彼の作品は、事故の悲惨さを伝えるとともに、原子力エネルギーの危険性を警告するものでした。

戦争の犠牲者たちへの眼差し

樋口は、戦争の犠牲者たちにも深い眼差しを向けてきました。毒ガス製造に携わった元少年少女たちの証言を記録し、戦争の悲劇を伝えました。また、戦場での体験を語ることのなかった元皇軍兵士たちの取材を敢行し、戦争の傷跡を浮き彫りにしました。これらの作品は、戦争の悲惨さを伝えるとともに、平和の重要性を訴えかけるものでした。

国境を超えたジャーナリズム

樋口の活動は、日本国内にとどまりません。アジア諸国やアメリカなど、世界各地で取材を行い、国境を超えたジャーナリズムを展開しています。彼の作品は、海外でも高い評価を得ており、その活動は、国際的な視点から社会問題に取り組む姿勢を示しています。

写真家としての姿勢

樋口の撮影スタイルは、被写体との信頼関係を築くことを重視しています。彼は、犠牲者との了解を得た上で、ありのままの姿を撮影し、その痛ましい姿を通して社会に警鐘を鳴らしてきました。彼の作品は、単なる記録写真ではなく、社会への深い問いかけであり、人々の心に深く訴えかける力を持っています。

樋口健二の経歴

長野県諏訪郡富士見町に生まれた樋口は、東京綜合写真専門学校を卒業後、フリーのカメラマンとして活動を開始しました。1960年代から公害、労働災害、環境汚染などの問題に取り組み始め、1969年には四日市公害を撮影した写真展『白い霧とのたたかい』を開催しました。1974年には、国連主催の世界環境写真コンテストで入賞するなど、その活動は国際的にも認められています。その後も、1980年代には毒ガス問題、1990年代には原発問題に焦点を当てた写真展を開催し、2001年には『核のない未来賞』教育部門賞を受賞しました。近年では、福島の原発事故以降、再び原発問題への関心を高め、全国各地で講演会や写真展を開催しています。また、シングルマザーチーム「Mamademo」のプロデュースも手掛け、女性の権利擁護や環境保護活動にも積極的に参加しています。

カトレア会と後進の育成

樋口は、1981年に報道写真ゼミの卒業生を中心に無料の写真塾「カトレア会」を立ち上げ、後進の育成にも力を注いでいます。カトレア会からは、スポーツ写真やドキュメンタリー写真など、様々な分野で活躍する写真家を輩出しています。

樋口健二の著書と写真集

樋口は、自身の活動をまとめた著書や写真集も多数出版しています。『闇に消される原発被曝者』、『売れない写真家になるには四日市毒ガス島原発』、『原発被曝列島』など、彼の代表的な作品は、社会問題に関心のある多くの人々に読まれています。

樋口健二の活動を支える人々

樋口の活動は、多くの人々の協力によって支えられています。特に、Mamademoのメンバーは、彼の講演会や写真展の企画・運営、ウェブサイトの管理など、様々な面で彼の活動をサポートしています。また、海外の活動家や研究者との連携も、彼の活動を大きく後押ししています。

報道写真家としての信念

樋口は、「報道とは、権力のためにあらず。必ずその時の弱者に寄り添い、権力に迎合せず、事実に基づいて真実を追求することである」という信念を持って活動を続けています。彼の作品は、社会の暗部を照らし、人々の良心に訴えかける力を持ち続けています。

受賞歴

1974年：国連世界環境写真コンテストプロ部門入賞（『四日市』）
2001年：ワールド・ウラニウム・ヒアリング核のない未来賞教育部門賞
2011年：第17回平和・協同ジャーナリスト基金賞（『原発崩壊〜樋口健二写真集』）
2022年：「脱原発社会を目指す文学者の会」文学賞ノンフィクション部門（『フクシマ原発棄民～歴史の証人　終わりなき原発事故』）

主な著書

『闇に消される原発被曝者』
『売れない写真家になるには四日市毒ガス島原発』
『原発被曝列島』
『アジアの原発と被曝労働者』
『これが原発だカメラがとらえた被曝者』
『日本破壊列島 1970-1990』
『はじまりの場所日本の沸点』
『環境破壊の衝撃1966-2007』
『新装改訂原発被曝列島』
『無声慟哭 VoicelessCries』
『毒ガスの島』～棄民たちの記録～
『忘れられた皇軍兵士たち』
『慟哭の日本戦後史　ある報道写真家の六十年』
『フクシマ原発棄民・歴史の証人』

主な写真集

『四日市樋口健二写真集』
『フォトドキュメント原発樋口健二写真集』
『毒ガス島樋口健二写真集大久野島毒ガス棄民の戦後』
『山よろけ北海道じん肺樋口健二写真集』
『原発 1973年〜1995年樋口健二写真集』
『樋口健二報道写真集成―日本列島’66‐’05』
『原発崩壊〜樋口健二写真集』
『新版四日市 YOKKAICHI』写真集