樋口静雄

樋口静雄：戦時下の歌声と波乱の生涯

大分県日田市出身の樋口静雄は、昭和時代の歌手として活躍しました。1937年、キングレコードから「満州娘」でデビュー。同年には林伊佐緒、近衛八郎との共演曲「男なら」がヒットを記録します。当時、アメリカで流行していたクルーナー唱法を取り入れようと試みましたが、時代背景から軍歌が主流となり、思うように才能を発揮できない時期もありました。

しかし、1939年には転機が訪れます。片言の日本語で歌うユーモラスな歌謡曲「チンライ節」が、大ヒットを飛ばしたのです。このレコードは数万枚もの規模で軍に買い上げられ、大陸に送られたという記録も残っています。他にも、「幻の戦車隊」など、戦時下の世相を表す楽曲で人気を集めました。戦時中は、戦線慰問にも赴き、多くの兵士たちの前で歌声を披露していました。

私生活では、キングレコードの歌手だった三門順子と結婚。その後、陸軍に入隊し、軍務に服することとなります。戦後は「長崎シャンソン」などのヒット曲を発表し、主に巡業生活を送りました。1948年には歌手活動を引退しています。

近年、注目を集めているのが「同期の桜」の原曲騒動への関与です。樋口静雄が歌った「戦友の唄」が、「同期の桜」の原曲であるという説が浮上しました。1980年の東京新聞の記事によると、樋口静雄は1973年1月24日に亡くなっていたことが判明。妹からの証言で、歌手引退後は職を転々とし、東京都葛飾区の金属工業会社でサラリーマンとして働いていたことが明らかになりました。社内行事などでは、自身の持ち歌を披露していたそうです。

現在、オムニバス盤「青春歌年鑑・戦前編③」に収録されている「戦友の唄」を聴けば、樋口静雄の歌声を偲ぶことができます。彼の音楽的才能と、激動の時代を生き抜いた人生は、多くの人々に感動と深い余韻を残しています。

樋口静雄の音楽性と時代背景

樋口静雄の音楽性は、時代の流れの中で変遷を遂げました。デビュー当時は、新しい音楽を取り入れようと試みていたものの、戦時中は軍歌が中心となり、彼の目指す音楽性とは異なる方向に進むことになります。「チンライ節」のようなユーモラスな楽曲や、「幻の戦車隊」のような戦時下の世相を表す楽曲は、彼の才能と時代背景が複雑に絡み合った結果と言えるでしょう。戦後の「長崎シャンソン」なども、時代を反映した彼の音楽性を示しています。

晩年と「同期の桜」原曲騒動

歌手引退後の樋口静雄は、一般企業で働くサラリーマンとして静かに暮らしていました。しかし、「同期の桜」の原曲騒動が起きたことで、再び注目を集めることとなります。「戦友の唄」が「同期の桜」の原曲であるという説は、様々な憶測や論争を巻き起こし、真相解明には至っていません。この騒動は、彼の音楽人生に新たな光を当てるとともに、謎めいた一面を浮き彫りにしました。晩年の彼が、社内行事などで自分の曲を歌っていたというエピソードは、音楽への変わらぬ情熱を物語っています。

まとめ

樋口静雄は、時代と共に変化する音楽シーンの中で、持ち前の歌唱力と表現力で活躍した歌手でした。軍歌全盛の時代、そして戦後の変化にも対応しながら、自身の音楽性を追求しました。彼の生涯は、激動の昭和を生き抜いた一人の歌手の物語であり、音楽史における貴重な記録と言えるでしょう。「同期の桜」原曲騒動など、未解明な部分も多く、彼の音楽と人生は、これからも人々の関心を集め続けることでしょう。

もう一度検索