権門

権門（けんもん）

日本の歴史において、古代の終わり頃から中世にかけての時代に、特別な権利や社会的な地位を持ち、強い勢力を持っていた家柄や集団を「権門」と呼びます。「勢家（せいか／せいけ）」という言葉と合わせて「権門勢家」とも呼ばれ、当時の政治や社会のあり方を大きく左右する存在でした。

この言葉自体は中国の古典に由来するとされ、日本では平安時代の初め頃から使われ始めたと考えられています。その使用例として、902年（延喜2年）に出された『延喜の荘園整理令』として知られる太政官符の中に、「権門」や「多勢之家（勢家）」といった言葉が登場します。この文書では、主に皇族に近い人々や、五位以上の高い位を持つ貴族を指して使われていたことがわかります。

特に摂関政治の時代に入ると、権門の存在感は一層増しました。地方に土地を持つ人々（在地領主）は、国の役人（国司）による介入や課税を避けたいと考え、権門に自分の土地を寄進するようになりました。これにより、寄進された土地は荘園となり、権門がその所有者（荘園領主）として、土地への不輸（税を納めない権利）や不入（国司の立ち入りを拒否する権利）といった特権を獲得しました。

この動きは、藤原北家の中でも摂関の地位に就く可能性のあるごく一部の家柄に荘園の寄進が集中するという現象を生み出し、権門内部での格差を拡大させました。その結果、権門となれなかった他の多くの貴族は「寒門（かんもん）」として没落していきました。当時の政治はこうした権門によって運営されていたため、荘園整理のような権門の力を抑え込む政策は積極的に行われなかったのが実情です。しかし、国の政治の基盤である太政官や国衙（地方の役所）の支配体制が完全に崩壊することも望ましくなかったため、官物率法を導入するなど、最低限の体制維持に向けた政策は続けられていました。

続く院政の時代になると、藤原北家への権力の一極集中に変化が見られるようになります。これと並行して、新たな勢力が権門として台頭してきました。具体的には、上皇として政務を執る「治天の君」を頂点とする皇室の勢力、比叡山延暦寺や奈良の興福寺といった大寺社が持つ強大な力、そして桓武平氏や清和源氏などに代表される武士団を背景とした新しい武家勢力のリーダーたちです。これらの勢力はしばらくの間、互いを牽制し合う形で並び立ちました。

平安時代の末期に起こった源平合戦という大きな争乱を経て、鎌倉幕府が成立すると、社会構造は大きく変化しました。いわゆる「荘園公領制」と呼ばれる、荘園と国衙領が並存する体制が確立され、これに伴い、「権門体制」と呼ばれる新しい権力の秩序が築かれたと考えられています。

このように、権門は古代末期から中世にかけての日本の社会において、権力構造の中心に位置し、土地制度や政治のあり方、さらには社会の階層構造にまで深く関与した、非常に重要な存在でした。

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