武士団

武士団：中世日本社会を支えた集団の軌跡

中世日本において、武士の集団である「武士団」は社会構造の中核を担っていました。本稿では、武士団の成立から変遷、そして学説史までを多角的に考察します。

古代からの武力集団と武士の誕生

古代においては戦闘目的の集団を「軍」と呼びました。律令制下の国家軍隊である軍団もその一つです。一方、「武士団」は平安時代に「兵（つわもの）」と呼ばれた武力層が私的に従える集団から発生し、中世（室町時代）まで続きました。現代の「武士」「武士団」という言葉は1930年代から学術用語として用いられ始めました。

平安時代の「兵」は、必ずしも「武士」とは同義ではありませんでした。当時の文献では「兵」「豪の者」といった呼称が多く、「武士」という言葉は稀でした。「武者」という言葉は平安時代中期には見られますが、現代でいう武士とは異なる意味合いを持っていた可能性があります。

武士論の変遷：在地領主論と職能論

戦後の日本中世史研究においては、まず「武士在地領主論」が主流でした。この説では、武士を在地領主と同一視し、武士団を中世的在地支配の形態と密接に結びつけていました。安田元久は武士団を「一定の時代」における構造的特質を持ったものとし、武士を単なる武芸者ではなく、一定の社会的・階級的特質を体現する存在と見なしました。

しかし、この説には疑問も呈されました。佐藤進一は武士を「武芸をもって支配階級に仕える職能集団」と定義し、戸田芳実は武士は初めから農民と対立する支配者側であったと主張しました。これらの異論は「武士職能論」として発展し、高橋昌明は武士が京の貴族から生まれたことを強調、身分を「出生身分」と「職業身分」に分け、武士という職業身分の成立過程を詳細に論じました。

その後、義江彰夫、関幸彦、元木泰雄ら多くの研究者が、在地領主論と職能論の両方の成果を踏まえて研究を進展させました。

武士団の前史：「兵（つわもの）」と辺境軍事貴族

「兵（つわもの）」は平安時代の武士に相当する存在ですが、その語源は明確ではありません。10世紀頃には武器を意味していたと考えられており、10世紀頃から「武者」と同義になったと考えられています。

9世紀には地方において、国衙と在地の郡司・豪族・富裕層との武力衝突が多発しました。朝廷は武勇に優れた貴族を地方に派遣し治安維持にあたらせましたが、当時は「貴族」と別に「武士」がいたわけではありませんでした。

10世紀初頭、旧来の郡司の勢力が弱体化し、私営田経営者などの新興勢力が台頭しました。朝廷や貴族による調整が及ばない東国では、これらの勢力間の対立は武力衝突に発展することが多く、その過程で「兵（つわもの）」と呼ばれる武力が台頭していきました。

武士の職能：騎馬武者と律令制の軍団

平安時代から鎌倉時代にかけて、武士の戦闘は騎馬武者の弓射が中心でした。騎馬と弓矢の技術は、支配階級である貴族社会においても受け継がれており、武士の職能は、こうした特種技能集団としての側面を持っていました。

律令制下の軍団は歩兵中心のイメージがありますが、騎兵部隊も存在し、軍事力の中核を担っていたと考えられます。軍団解消後も、弓射騎兵は「健児制」として継承され、中世武士の戦闘スタイルにも繋がっていきました。

「牧」と武士の発生：馬の生産地と武士団

平安時代の武士にとって騎馬と射技は必要不可欠でした。良馬の生産地である「牧」は、武士団の発生に深く関わっていました。関東の有力武士団は、朝廷の馬の放牧地である「牧」の管理人を多く輩出しました。平将門も官牧を地盤としていました。

京の周辺では、摂関家領の牧を拠点とする源氏などが活躍し、馬寮と武士との繋がりを示しています。院庁の御厩別当は、多くの武士団を公的に支配下に置き、重要なポストでした。

武士の認定：武官、血縁、そして「家業」

「武士」の認定は、武官としての地位が重要な要素でした。平将門の乱以降、天慶勲功者の子孫たちが「朝家の爪牙」として活躍し、武官の地位を得ることで「兵の家」としての認識が定着していきました。「大索」と呼ばれる制度は、官職によらず武を担う「兵の家」の最初の認定式と言えるでしょう。

地方では、国衙軍制論が武士の認定に深く関わっています。地方の軍事貴族は中央の有力貴族に臣従し、武官の官職を得ていました。

開発領主と武士団：領地支配と重層的結合

「私営田経営者」の時代、中央から下った軍事貴族は、国司と私営田領主の紛争解決の担い手となりました。しかし、この時代の戦闘は、農民を動員した焦土戦術が中心でした。

11世紀後半から12世紀初頭、農業経営から離れ、農民から「加地子」を取る本格的な「領主」へと転化し始めた「開発領主」が登場します。彼らは荒地の開拓を行い、その従事者を新しい村落に編成しました。開発領主となったのは、国衙の在庁官人になった軍事貴族や前司の子弟、そして土豪などでした。

開発領主が戦闘集団である「武士団」を組織したとき、それは農民兵ではなく、領主間で私的に結ばれた集団でした。一族が結束して武士団となり、事が起きれば一族が結集しました。

開発領主は、郡や郷、荘園、村郷といった重層的な結合関係を築き、それが鎌倉幕府の基盤を形成しました。

武士団の結合度：血縁、惣領制、そして「党」

武士団の結合度は、近世の武士道とは異なり、緩やかなものでした。主従関係には、「家人」「家礼」の二種類があり、「家礼」は複数の主人に仕えることもありました。

結合度を強めたのは「血縁」でした。平安時代後期以降、「イエ」の概念が強まり、血縁による結合が強まっていきました。しかし、近世の「家」のイメージとは異なり、兄弟間のライバル意識も強かったと考えられます。

「惣領制」は、鎌倉幕府が御家人支配の基盤とした制度です。惣領は一族を統率する立場でしたが、その統制力は必ずしも絶対的なものではありませんでした。

「党」と呼ばれる武士団は、一族や地域に基づく協同組合のような性格を持っていました。武蔵七党などは、地域連合と見なすことができます。

一揆：小領主の結束と共同行動

「一揆」は、小領主が共同行動をとることです。分轄相続によって弱体化した小領主たちが、他の勢力に飲み込まれないために、協力してまとまった勢力をつくりあげ、戦に参加しました。

武士団の蔓延：院政期から南北朝時代へ

武士団の蔓延は、12世紀に入ろうとする頃から始まりました。「保元の乱」「平治の乱」を境に、地方領主の武装化が進み、源平の争乱でピークに達しました。

南北朝時代の争乱は、全国的な長期にわたる戦乱となり、武士層を拡大させました。この時代には「悪党」と呼ばれる者たちも武士層に加わり、武士団の構成は変化していきました。

室町時代から戦国時代へ：武士団の変容と終焉

15～16世紀には、恒常的な施設としての「城」が築かれるようになり、戦乱は全国的、かつ常態となりました。戦法も変化し、農業生産力の向上と流通の拡大によって、百姓身分から小領主となる者も増えました。

「武士団」は、イエ軍団をその類型として、戦国時代の「寄子」衆へと変容し、その歴史を終えていきました。

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