横山保

横山保：零戦と共に生きた空のサムライ

横山保（よこやま たもつ）は、1909年（明治42年）に神奈川県横須賀市で生まれ、日本の海軍軍人、そして航空自衛官として生涯を捧げた人物です。海軍兵学校を卒業後、戦闘機搭乗員としての道を歩み始め、日中戦争、太平洋戦争という激動の時代を、空から見つめ続けました。最終階級は海軍中佐、航空自衛隊では空将補。

海軍での初期

横山は横須賀中学校を経て、1928年4月に海軍兵学校へ入校（59期）。1931年11月に卒業後、1934年11月には飛行学生を拝命し、1935年7月に課程を修了、戦闘機搭乗員となりました。1937年2月には大分空分隊長に任命され、同年7月の支那事変勃発時には、十三空分隊長として上海へ着任、哨戒任務に従事しました。

南京空襲での初陣

1937年9月19日、横山は南京の中国空軍機殲滅を目的とした第一次南京空襲に、第1大隊第3中隊長として参加。離陸時のトラブルに見舞われながらも、予備機で出撃し、敵機との初戦闘を経験しました。この空襲では不確実ながらも1機を撃墜したと記録されています。当初、翌日の第三次空襲にも参加予定でしたが、艦爆隊の指揮官が変更されたため、直接の参加は見送られました。

零戦開発と初期の活躍

1940年6月、横須賀空付となった横山は、当時実験中だった十二試艦上戦闘機（後の零戦）の初期運用に深く関わりました。彼は、零戦による中支戦線への早期進出を命じられ、マニュアル作成から担当。7月には十二空分隊長として、零戦の漢口進出を指揮しました。機体の不具合が多発する中、横山は現場の状況を訴え続け、関係者との交渉の末、機体と発動機の担当者を同行させ、自らも先陣を切って漢口へ進出しました。この際、山口多聞や大西瀧治郎といった上層部からの早期実戦投入の要請に対し、機体の問題を指摘し、改善を促したエピソードは、零戦の初期開発における重要な証言として残っています。

漢口進出後、零戦搭乗員は横山率いるA班（10名）と、進藤三郎大尉率いるB班（12名）に分けられました。両班は戦果を競い合い、横山も零戦の運用に関する経験から、先陣争いで譲りませんでした。1940年8月19日にはA班を率いて重慶へ向かうも敵機との交戦は無く、零戦の初戦果は9月13日のB班による「壁山空戦」で記録されました。

成都攻撃での功績

1940年10月4日、横山はA班を中心とした零戦8機を率いて、第一次成都攻撃を敢行しました。この作戦では、事前に周到な計画を立て、敵機をおびき寄せる陽動作戦や、低空銃撃などの戦術を駆使しました。また、部下には強行着陸による地上攻撃を許可し、敵飛行場に放火するという大胆な作戦も実行しました。この攻撃で、部隊は多数の敵機を撃墜・炎上させる戦果を上げましたが、その一方で、横山は司令官から「蛮勇」と叱責を受けました。しかし、横山は「撃滅せよとの命令を果たそうとしたまで」と反論し、部下の行動に対する全責任を負う覚悟を示しました。

この作戦の功績と、壁山での進藤大尉の活躍が認められ、横山は支那方面艦隊司令長官から感状を授与されました。

1941年3月には再度成都攻撃を命じられ、12機の零戦を率いて出撃。新津飛行場、双流飛行場、太平寺飛行場などを偵察しましたが、敵機は確認できませんでした。再度双流飛行場に戻った際に、四方の民家に偽装した敵機を発見し、部下と共に共同で撃破。その後の空戦では、多数の敵機を撃墜する戦果を挙げました。

太平洋戦争とその後

太平洋戦争開戦時はフィリピン空襲に参加。当初、空母を使用する作戦が計画されていましたが、横山は日中戦争での零戦の長距離空襲の経験から、台湾からの出撃が可能であると主張し、採用されました。その後、大分空飛行隊長、二〇四空飛行隊長などを歴任し、1945年8月に終戦を迎えました。

戦後、1954年に航空自衛隊へ入隊。第1航空団副司令、中部航空方面隊司令部幕僚長、第7航空団司令などを務め、1964年に退職しました。

1981年3月、横山保は生涯を終えましたが、彼の残した功績と、零戦と共に生きた証は、今もなお多くの人々に語り継がれています。

著書

横山保は自らの経験をまとめた著書『あゝ零戦一代―零戦隊空戦始末記』を出版し、その中で、激戦の様子や当時の状況を詳細に語っています。

参考資料

横山保『あゝ零戦一代―零戦隊空戦始末記』光人社NF文庫、1994年。
吉田俊雄『指揮官たちの太平洋戦争―青年士官は何を考え、どうしようとしたか』光人社NF文庫、2004年。
中山雅洋『中国的天空（上）沈黙の航空戦史』大日本絵画、2007年。
野村了介ほか『空戦に青春を賭けた男たち』光人社NF文庫、2018年。
* 零戦搭乗員会『零戦、かく戦えり！　搭乗員たちの証言集』文藝春秋、2016年。

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