横山勝也

横山 勝也（よこやま かつや、1934年12月2日 - 2010年4月21日）は、戦後から21世紀初頭にかけて活躍した日本の代表的な尺八奏者の一人です。

生い立ちと学び

横山氏は、幼い頃から尺八に親しむ環境で育ちました。祖父である琴古流の横山篁邨（こうそん）、そして父の横山蘭畝（らんぽ）という、いずれも優れた尺八家から手ほどきを受けました。さらに、25歳を迎える頃には、当時の邦楽界において全く異なる音楽的探求をしていた二人の師、すなわち、創作的な尺八音楽で知られる福田蘭童（らんどう）と、虚無僧尺八の伝統を受け継ぐ海童道祖（かいどう どうそ）に師事しました。このように、異なる流派や思想を持つ師から学ぶことで、横山氏の音楽性には幅広い基盤が培われました。

初期活動とアンサンブル

1960年にNHK邦楽技能者育成会の第6期生として卒業し、演奏家としてのキャリアを本格化させます。現代邦楽の発展にも積極的に関わり、1963年には村岡実（むらおか みのる）、宮田耕八朗（みやた こうはちろう）と共に「東京尺八三重奏団」を結成しました。このグループは後に「日本音楽集団」へと発展解消され、現代邦楽の普及に重要な役割を果たします。翌1964年には、当時の尺八界を牽引していた初代山本邦山（やまもと ほうざん）、二代青木鈴慕（あおき れいぼ）という二人の巨匠と共に「尺八三本会」を結成。伝統と革新の両面から尺八音楽を探求する活動を展開しました。

国際的な飛躍

横山勝也氏のキャリアにおける最も特筆すべき出来事の一つは、1967年に訪れます。世界的指揮者である小沢征爾（おざわ せいじ）の指揮のもと、ニューヨーク・フィルハーモニックと共演し、現代音楽の作曲家として国際的に知られる武満徹（たけみつ とおる）の代表作「ノヴェンバー・ステップス」を演奏しました。この作品は、尺八と琵琶という日本の伝統楽器と、西洋のオーケストラを組み合わせた革新的な楽曲であり、その初演における横山氏の演奏は世界中の音楽界に大きな衝撃を与えました。これを機に、横山氏は国際的な尺八奏者としての地位を確立し、その後も世界各国の主要なオーケストラと数多く共演するなど、活発な海外活動を展開しました。

国内での評価と教育・普及活動

国内外での目覚ましい活躍は、国内でも高く評価されました。1971年に芸術選奨を受賞。また、文化庁芸術祭では、1972年に優秀賞、翌1973年には最高栄誉である大賞を受賞するなど、その演奏と功績は公的にも認められました。演奏活動と並行して、尺八の教育と普及にも情熱を注ぎました。1988年には、岡山県美星町（現在の井原市）に「国際尺八研修館」を開設し、初代館長に就任。国内外からの研修生を受け入れ、尺八の技術指導とともに、その精神性や文化背景を伝える拠点としました。1994年には、同研修館を拠点に「第一回美星国際尺八音楽祭」を開催し、世界中の尺八奏者や愛好家が一堂に会する機会を創出しました。1998年にはアメリカで開催された「第二回ボルダー国際尺八音楽祭」に招待され、海外の著名な奏者たちとの交流や共演を通じて、尺八の国際的なネットワーク構築にも貢献しました。

晩年と遺産

伝統楽器である尺八の可能性を現代にも広げ、2001年にはカプコンのゲーム「鬼武者」のサウンドトラック「交響組曲Rising Sun」において尺八演奏を担当し、新たな聴衆にもその音色を届けました。長年の功績が称えられ、2002年には紫綬褒章を受章しました。横山勝也氏は、2010年4月21日に惜しまれつつこの世を去りました。法名は『響流院釋勝楽（きょうりゅういん しゃくしょうらく）』。

横山勝也氏は、伝統に深く根ざしながらも、現代音楽や国際交流に積極的に取り組み、尺八の可能性を広げた革新的な演奏家でした。また、教育者としても多くの後進を育成し、国際尺八研修館の設立を通じて、尺八を世界に伝える上で計り知れない貢献をしました。彼の功績は、現代における尺八の地位を確立する上で極めて重要なものであり、その音楽と精神は今なお多くの人々に影響を与えています。

関連事項：ノヴェンバー・ステップス
外部リンク：国際尺八研修館

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