横須賀海軍砲術学校辻堂演習場

横須賀海軍砲術学校辻堂演習場は、現在の神奈川県藤沢市および茅ヶ崎市の沿岸域に存在した、旧日本海軍横須賀海軍砲術学校の付属施設です。

概要

この演習場は、海軍の新兵教育における総仕上げとして位置づけられていた、陸戦隊の野外演習の場として活用されました。ここでは、敵地上への上陸を想定した訓練に加え、砲撃や爆破といった実践的な演習も行われていました。演習が実施される際には、横須賀駅と辻堂駅の間で直通の臨時列車が運行され、兵員の輸送が行われたと記録されています。また、陸戦訓練の一環として、毎年この演習場から横須賀までの間を兵員が行軍する訓練も課されていました。横須賀海軍砲術学校の教育課程だけでなく、海軍経理学校における陸戦演習も当演習場で行われていたことが知られています。

歴史

現在の辻堂演習場があった地には、かつて江戸時代の相州炮術調練場が設けられていましたが、明治維新を迎えた1868年（明治元年）に廃止されました。その後、明治時代の初頭には、この地は日本海軍横須賀鎮守府の管理下に入り、砲術試験場および陸戦演習場として利用されるようになります。1896年（明治29年）4月には、横須賀鎮守府によって「明治村辻堂ニ於テ射撃ノ際方向注意ノ件」という、射撃時の注意喚起に関する規定が定められました。そして、1906年（明治39年）3月には、軍が約40町歩（約40ヘクタール）の土地を買収し、施設としての性格が固定化されました。正式に横須賀海軍砲術学校の演習場として置かれたのは、1926年（大正15年）のことです。
太平洋戦争中の1944年（昭和19年）8月5日には、演習地周辺である辻堂海岸での海水浴が禁止され、隣接する鵠沼海岸でも警察の許可が必要となるなど、利用制限が強化されました。終戦間近の1945年（昭和20年）6月19日には、高松宮宣仁親王が訓練の視察に訪れています。そして、日本の敗戦に伴い、1945年（昭和20年）9月2日に連合国軍によって本演習場は接収されました。しばらくは連合国軍の演習地として使用された後、最終的には在日米海軍の辻堂演習場として利用されることとなります。

演習内容

新兵教育の総仕上げとして実施された陸戦演習は、実践的な内容が盛り込まれていました。海軍機関学校（後の海軍工機学校）の生徒たちも、これらの演習に合同で参加していました。演習の舞台となったのは、辻堂海岸に広がる広大な砂丘です。この砂丘を戦場に見立て、参加部隊は紅白の二手に分かれて演習を行いました。各兵は攻撃部隊または陣地防御部隊のいずれかに配属され、3日間にわたって訓練が展開されました。演習は最初、中隊単位で開始されます。兵士たちは白い事業服を着用し、斥候や報告要領の訓練を積みながら前線へと進出しました。同時に、敵部隊との緊迫した駆け引きが展開されました。
演習の最大の山場は、白兵戦、すなわち大隊対抗の遭遇戦でした。ここでは、各隊が連携を取りながら敵に接近し、攻防戦を繰り広げます。この訓練では、実弾ではなく空砲を使用することが許されていました。戦況が有利に進んだと判断されると、双方に「着剣」の号令がかかります。兵士は小銃の先端に銃剣を取り付け、突撃ラッパの合図と共に敵陣へ向かって突進しました。白兵戦のクライマックスでは、双方が銃剣を十字に組み合わせ、「ウオーッ」という大音声と共に終了する独特の作法がとられました。
演習の最終日には、より実践的な追撃退却戦が行われました。参加部隊は辻堂から鎌倉までの砂浜を走り抜け、さらに鎌倉市街地を経て、一挙に横須賀までの長距離を踏破するという、非常に過酷な訓練でした。

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