樽井藤吉

樽井藤吉

樽井藤吉（たるい とうきち）は、嘉永3年（1850年）に生まれ、大正11年（1922年）に没した、明治・大正期の政治運動家です。彼はアジア主義者として知られ、その思想は当時の社会に大きな影響を与えました。別名として森本藤吉の名も使っていました。

生涯

樽井藤吉は、大和国の材木商の次男として誕生しました。明治6年（1873年）に上京し、平田派の国学者である井上頼圀に師事して国学を学びました。この時期に培われた知識や思想が、後の彼の活動の基盤となったと考えられます。

明治15年（1882年）、樽井は日本で初めて社会党の名を冠した「東洋社会党」を結成しました。この党は、当時の社会変革を求める人々の期待を担いましたが、結成からわずか1ヶ月で解散命令を受け、樽井自身も1年の禁固刑に処せられました。この事件は、当時の政府が社会主義的な動きを警戒していたことを示しています。

出獄後、樽井は玄洋社の平岡浩太郎らと交流を深めました。また、日本に亡命していた朝鮮開化派のリーダー、金玉均と出会い、彼を支援するために、頭山満とともに玄洋社の浪人を朝鮮に送る計画を立てました。しかし、この計画は実行に移される前に、明治18年（1885年）に大井憲太郎が起こした大阪事件に巻き込まれ、樽井も投獄されることになりました。

明治25年（1892年）、樽井は森本藤吉の名で衆議院議員に当選しました。政治家としての活動を通じて、自身の思想を社会に広める機会を得ました。翌年の明治26年（1893年）には、彼の主著である『大東合邦論』を刊行し、その思想を広く世に知らしめました。

思想

樽井藤吉の思想の中心は、主著『大東合邦論』に示されています。彼は、日本と朝鮮が対等な立場で合邦し、「大東」という一つの国家を形成することを提唱しました。この思想は、当時の国際情勢やアジアの現状に対する彼の深い洞察に基づいています。

樽井は、日本と朝鮮が協力して独立を維持し、清国と同盟関係を結ぶことで、西洋列強の侵略からアジアを守ることを目指しました。また、アジアの復興を達成することも彼の重要な目標でした。

この思想は、後に日韓併合の思想的根拠として利用されたため、戦後、アジア侵略を先導した思想として批判されることもありました。しかし、樽井自身はアジア蔑視の感情を持っておらず、純粋に対等な合邦を模索していたという点には留意が必要です。

樽井藤吉の思想は、当時のアジアの状況に対する深い洞察と、未来への強い希望に満ちていました。彼の生涯と思想は、今日の私たちにとっても多くの教訓を与えてくれるでしょう。

参考文献

* 竹内好編『現代日本思想大系（9）アジア主義』 筑摩書房、1963年

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