橋弁慶

能『橋弁慶』

『橋弁慶』は、室町時代に成立した能の演目の一つであり、武蔵坊弁慶と後の源義経となる牛若丸の出会いを描いています。この作品は、16世紀初頭の文献にその存在が確認されており、江戸時代には金剛、喜多、観世、宝生、金春といった各流派によって上演されてきました。

あらすじ

物語は、弁慶が比叡山西塔近くに住み、五条の天神へ丑の刻詣でをしていた場面から始まります。満願の日、従者は、五条付近で人間離れした少年が人を斬りつけているという噂を伝え、今日の参詣を思いとどまるよう進言します。弁慶は一度はそれを聞き入れますが、すぐに考えを改め、鬼退治に出かけます。

五条の橋に到着すると、都の者が牛若丸による千人斬りの噂を語りながら逃げてきます。牛若丸は、母の言いつけで明日には寺に戻らねばならず、今日が最後と告げ、橋の上で弁慶を待ち構えます。

弁慶は、大長刀を携え、鬼神すら寄せ付けないほどの気迫で牛若丸に近づきます。しかし、牛若丸は女の姿に見え、通り過ぎようとしますが、牛若丸は挑発するように長刀を蹴り上げます。弁慶は怒り、懲らしめようと斬りかかりますが、逆に打ち込まれ退却します。再度斬りかかりますが、宙を舞うようにかわされ、長刀を打ち落とされてしまいます。組もうとしても、その動きは捉えられません。

弁慶は、自分の力が全く及ばないことに驚き、少年が希代の武術の持ち主であることを認めます。そして、牛若丸に名前を尋ねると、彼は源の牛若であると名乗ります。弁慶は自らも名乗り、降参し、牛若丸に主君になってほしいと願い出ます。こうして、二人は主従の契りを結び、牛若丸は九条の御所へと向かうのでした。

登場人物

前シテ・後シテ: 武蔵坊弁慶
子方: 牛若丸
トモ: 従者

作者と典拠

本作は、『弁慶物語』や『義経記』といった室町時代の物語に影響を受けていると考えられています。一般的に弁慶の伝説では、千人斬りは弁慶の行いとして語られることが多いですが、この作品では牛若丸の行いとして描かれています。また、室町時代の義経像を反映し、牛若丸を非凡な能力を持つ人物として描写している点が特徴です。

参考資料

梅原猛、観世清和『能を読む④信光と世阿弥以後』角川学芸出版 2013年

関連事項

義経記
武蔵坊弁慶生誕伝説

外部リンク

銕仙会〜能と狂言〜
『橋弁慶』 - コトバンク

『橋弁慶』は、弁慶と牛若丸の出会いをドラマチックに描いた能作品であり、その舞台は五条の橋で繰り広げられる二人の戦いが中心となっています。この作品は、弁慶が牛若丸に心服するまでの過程を通して、人間の強さや忠誠心といったテーマを深く掘り下げています。

もう一度検索