橋本宗吉

橋本宗吉：日本の電気学の先駆者

橋本宗吉（はしもと そうきち、宝暦13年(1763年） - 天保7年5月1日(1836年6月14日))は、江戸時代後期の蘭方医、蘭学者です。曇斎（どんさい）、絲漢堂とも号しました。彼は、医学、天文学、本草学の翻訳に貢献し、特にエレキテル（静電気発生装置）の製作と研究において、日本の電気学の発展に重要な役割を果たしました。

生い立ちと蘭学との出会い

橋本宗吉の祖先は、四国阿波国の郷士と伝えられています。父の代に大阪に移り住みましたが、宗吉自身がどちらで生まれたかは定かではありません。当初、傘屋で紋書き職人として働いていた宗吉は、その優れた記憶力で評判となり、医者の小石元俊に見出されました。小石は、蘭学書の翻訳に必要なオランダ語に精通した人物を探しており、天文学者の間重富と相談の上、橋本を江戸へ派遣し、蘭学を学ばせることにしました。

寛政2年（1790年）、橋本は江戸へ出て大槻玄沢の門弟となります。杉田玄白の『蘭学事始』にも、この経緯が記述されています。小石元俊は、橋本の訳書『蘭科内外三法方典』の序文で、彼がわずか4ヶ月の江戸滞在でオランダ語4万語を暗記したと紹介しています。その後、橋本は大阪に戻り、小石や間の指導の下で蘭学書の翻訳に従事しました。

絲漢堂の開設と翻訳活動

小石元俊と間重富が相次いで大阪を離れた後、橋本は寛政8年（1796年）頃に独立し、医師として開業しました。享和の初めには、蘭学塾「絲漢堂」を開き、『喝蘭新訳地球全図』を出版しました。寛政12年（1800年）には、門弟と共に霞島の刑場で女刑屍の解剖を行い、その詳細な解剖図を記録しました。また、『蘭科内外三法方典』の執筆にも取り組み、文化元年（1804年）から文化10年（1814年）にかけて六巻を完成させました。

エレキテル研究への情熱

橋本は、エレキテル（静電気発生装置）の研究にも深く没頭しました。自著『阿蘭陀始制エレキテル究理原』によると、21歳の時にエレキテルを借りて実験したのが最初でした。40歳頃からは、オランダの百科事典を参考に、エレキテルの製作と実験に励みました。その成果を『阿蘭陀始制エレキテル究理原』にまとめ、エレキテルの原理説明にとどまらず、ライデン瓶を使った様々な実験を記録しました。例えば、寺子屋で子供たちに感電実験（百人おどし）を行ったり、門人に雷の実験をさせたりするなど、その実験は多岐にわたります。

『阿蘭陀始制エレキテル究理原』には、平賀源内のエレキテルとは異なる、鉄衝（鉄砲の古い筒）に帯電させる方法を用いたエレキテルについても解説されています。また、ライデン瓶の構造や実験方法も詳細に記述されています。

西洋医事集成の翻訳

橋本は、蘭学書翻訳の集大成として『西洋医事集成』の翻訳に取り組みました。当初は50巻を予定していましたが、推敲の結果、本草編と治病編の二編、合計35巻にまとめました。文化13年（1816年）に出版許可を得て、文政4年まで出版が続けられました。この書物は、西洋の医学知識を体系的に紹介するもので、橋本の翻訳家としての力量を示すものです。

晩年と死去

文政年間後半の橋本の行動は詳しくわかっていません。文政10年（1827年）には、広島竹原に一時隠遁したとされています。これは、娘婿が医者をしていたことによるものと考えられています。隠遁の理由については、大阪での切支丹婆逮捕事件やシーボルト事件との関連も指摘されていますが、娘夫婦の呼び寄せに応じたという説が有力です。

橋本は天保7年（1836年）に死去し、大阪の念仏寺に葬られました。

評価と業績

橋本宗吉は、エレキテルを単なる遊戯や医療用具としてではなく、自然現象の実験や観察対象として取り扱った最初の人物とされています。そのため、日本の電気学の祖として高く評価されています。『阿蘭陀始制エレキテル究理原』では、エレキテルの原理を解説し、様々な実験を通してその性質を明らかにしようと試みました。このことは、橋本がエレキテルを科学的な探求の道具として捉えていたことを示しています。

また、蘭学者としても、その優れた語学力と翻訳能力で知られています。長崎の通詞が驚嘆するほどのオランダ語読解力を持っていました。一方で、地理の知識については、同門の山村才助から厳しく批判されています。橋本は、医師としての評価は必ずしも高くはありませんでしたが、蘭学の分野においては、その功績が大きく認められています。

墓と記念碑

橋本宗吉の墓は、大阪市中央区の念仏寺と、広島県竹原市の照蓮寺にあります。また、大阪市には、彼の蘭学塾「絲漢堂」跡を示す記念碑が建てられています。

主な著作

『蘭科内外三法方典』
『西洋医事集成宝函』
『喝蘭新訳地球全図』
『阿蘭陀始制エレキテル究理原』
* 『エレキテル訳説』

橋本宗吉は、日本の科学史において、重要な足跡を残した人物の一人です。彼の蘭学への情熱と、電気学の分野における先駆的な業績は、後世に大きな影響を与えました。

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