橋本進吉

橋本進吉：日本の国語学を築いた巨星

橋本進吉（1882年-1945年）は、日本の言語学、特に国語学において、抜きんでた功績を残した学者です。福井県敦賀市に生まれ、東京帝国大学文科大学言語学科を卒業後、同大学の助手、助[[教授]]、教授を歴任しました。その間、文部省国語調査委員会補助委員なども務め、学界での地位を確立していきました。1934年には東京帝国大学より文学博士の学位を取得しています。1942年には日本文学報国会国文学部会長、1944年には国語学会会長に就任するなど、学界を牽引する存在でした。1945年、惜しまれつつ病没しました。

徹底的な文献主義に基づいた研究

橋本進吉の学問の特徴は、何と言っても徹底的な文献研究にあります。これは「文献主義」と呼ばれる彼の学風の根幹を成すものです。膨大な文献を丹念に調査し、綿密な分析を行うことで、日本語の進化の歴史を解明しようとしました。この姿勢は、代表的な業績の一つである『校本万葉集』の編纂にも明確に現れています。その厳密な研究姿勢は多くの弟子にも受け継がれ、後の日本語学研究の主流を築くこととなりました。

上代特殊仮名遣の体系化

橋本進吉は、上代特殊仮名遣の体系化においても大きな功績を残しました。上代特殊仮名遣とは、古語の文法を反映して用いられた独特の仮名遣いで、その複雑な仕組みの解明は、当時の国語学における大きな課題でした。橋本は、独自の研究によりこの仮名遣いを体系的に解明し、その成果は後の研究に大きな影響を与えました。特に、本居宣長や石塚龍麿の研究を独自に深め、その価値を明らかにした点が注目に値します。水谷静夫らによる後世の研究も、橋本進吉の研究が上代特殊仮名遣の解明において重要な役割を果たしたことを示しています。

「橋本文法」の確立

橋本進吉は、「文節」を重視した独自の文法体系を構築しました。これは「橋本文法」と呼ばれ、現代日本語文法の基礎をなす四大文法の一つとして現在も高く評価されています。橋本文法は、学界のみならず、学校教育にも大きな影響を与え、長きに渡り多くの日本語学習者を支えてきました。

竹内文書鑑定への関与

橋本進吉は、1942年の天津教不敬罪裁判において、竹内文書の鑑定にも関わりました。狩野亨吉とともに検察側証人として出廷し、上代特殊仮名遣の観点から竹内文書に記された文字を否定しました。この事件は、彼の学問的立場と社会的な責任感の両方を示すエピソードとして、現在も注目を集めています。

多岐にわたる著作活動

橋本進吉は、数多くの著作を遺しました。『古本節用集の研究』、『南京遺文』、『文禄元年天草版吉利支丹教義の研究』といった単著や共著のほか、「岩波講座 日本文学 国語学概論」や『国語科学講座』など、教科書や解説書も執筆しました。没後も『橋本進吉著作集』（全12巻）としてまとめられ、岩波書店より刊行されています。これらの著作は、現在も日本語学研究において重要な参考文献として活用されています。

橋本進吉の遺産

橋本進吉は、その生涯を通じて、綿密な文献研究に基づいた独自の学問を展開し、日本の国語学研究に計り知れない貢献を果たしました。上代特殊仮名遣の解明、橋本文法の確立、そして数多くの著作は、現代の日本語学研究の基礎を築く礎となっています。彼の学問的業績は、後世の研究者たちに大きな影響を与え続け、日本の言語文化の理解を深める上で、今もなお重要な役割を果たしています。彼の研究は、単なる学問にとどまらず、日本の言語文化の継承と発展に貢献した、まさに国語学の礎を築いた偉大な功績と言えるでしょう。

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