機回し

機回し（きまわし）

機回しとは、列車を牽引してきた機関車を、その編成の先頭から切り離し、別の線路を経由して編成の最後尾に連結し直す一連の作業のことです。この作業は「機関車回し（きかんしゃまわし）」とも呼ばれ、鉄道の運行において特に重要な役割を果たします。

作業が必要な場面

この作業が主に必要となるのは、機関車が客車や貨車などを牽引して終着駅に到着した後、折り返し運転を行う場合や、スイッチバック構造を持つ駅で列車の進行方向を変える場合です。機関車牽引式の列車は、進行方向を変えるためには物理的に機関車を編成の逆端に付け替えなければなりません。これが機回し作業の主要な目的となります。

具体的な手順

機回しの典型的な手順は以下のようになります。

1. 列車が駅に到着し、停車します。
2. 編成の最前部に連結されていた機関車を、客車や貨車の編成から切り離します。
3. 切り離された機関車は、駅構内に設けられた側線（機回し線など）を走行します。
4. 機関車は、列車編成の脇を通り、編成の一番後ろまで移動します。
5. 編成の最後尾に到着した機関車は、再び列車編成に連結されます。
6. 連結が完了すれば、列車は逆方向への発車が可能となります。

この手順を経ることで、機関車は列車の先頭から最後尾へと位置を変え、進行方向を転換するための準備が整います。

使用される設備と機関車の構造

機回し作業を行うためには、駅構内の線路配置が重要になります。多くの場合、列車が停車する本線の脇に設けられた「機回し線」と呼ばれる専用の線路を利用します。機関車はこの機回し線を通って編成の反対側へと移動します。また、駅や路線の構造によっては、デルタ線（三角線）と呼ばれる、線路が三角形に分岐・合流する場所を利用して機関車の向きを変えることなく機回しに相当する作業を行うこともあります。

機関車の構造も機回しに影響を与えます。特に、片方向にしか運転台がない機関車の場合、機回しによって編成の逆端に移動しても、機関車自体の向きが変わらなければ依然として進行方向に対して後ろ向きになってしまいます。

例えば、かつて主力だった蒸気機関車は基本的に片運転台でした。このため、機回しによって編成の最後尾に移動した後、さらに「転車台（ターンテーブル）」と呼ばれる設備の上に乗って機関車自体の向きを180度回転させる作業が必要となることが一般的でした。蒸気機関車が運行されていた時代の主要駅には、機回し線と合わせて必ずと言っていいほど転車台が設置されていました。

一方、現代の電気機関車やディーゼル機関車の多くは、進行方向に関わらず運転できるように、車両の両端に運転台を備える「両運転台」構造となっています。このため、機回しで編成の反対側に移動しても、機関車自体の向きを変える必要はありません。かつて日本国有鉄道で活躍したEF55形電気機関車のように、例外的に片運転台の電気機関車も存在しましたが、現在運行されている多くの機関車では、機回し作業の際に転車台による方向転換は不要となっています。

鉄道運行上の意義

機回し作業は、特に動力集中方式（機関車が客車や貨車を牽引する方式）の列車運行において、列車の折り返しや方向転換を可能にするために不可欠な作業です。この作業がスムーズに行われることで、列車の定時運行が維持されます。現代では、列車の両端に運転台を持つ電車や気動車が普及し、多くの路線で機回し作業自体が不要となっていますが、機関車牽引列車が運行される路線や貨物輸送においては、依然として機回しは基本的な運行手順の一つとして重要な意味を持っています。

関連項目

機回し線
転車台
デルタ線
スイッチバック
* 動力集中方式

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