次将装束抄

次将装束抄について

『次将装束抄』（じしょうしょうぞくしょう）は、鎌倉時代前期に藤原定家によって書かれた有職故実書です。この本は、近衛次将の装束と作法に関する貴重な情報を記しています。通称『夜鶴装束抄』や『羽林要抄』とも呼ばれ、全1巻からなります。内容は元旦や節会などの年中行事、行幸や法会等の特別な行事、更には内裏の火災や僧兵の入洛といった緊急時における次将の装束や作法に関する慣行と先例、旧説と定家自身の考えを交えて解説しています。

成立の背景

この書は、定家が自らの息子である為家のために執筆したと言われています。推定では承元4年（1210年）から嘉禄2年（1226年）の間に書かれたとされています。主に四位や五位の近衛中将・少将のための指針として作られており、これらの地位は摂関家の子息も経る重要な官職とされ、任じられること自体が名誉とされていました。特に、羽林家と呼ばれる家は他の家に比べて高貴と見なされ、定家自身もこのような家の出身でした。

定家の祖父である藤原俊忠は次将の職を経て権中納言に至りましたが、彼は早くに亡くなったため、定家の父・俊成は次将には任ぜられませんでした。定家自身は20代後半になって近衛少将に任じられましたが、約20年間次将の地位にありました。定家はその後、13歳の為家が少将に任命される際に、自身の中将の地位を辞しました。これらの経緯から、為家が近衛次将としての役割を果たすことは家の存続にとって非常に重要な事であったことが分かります。

装束の複雑さ

また、次将の装束については非常に複雑な慣習が存在しました。例えば、日本の朝廷の服制においては、文官と武官で異なる袍が定められています。しかし、弘仁5年（814年）以降、五位以上の武官については異なる形式の袍の使用が認められるようになりました。このことから、地位によって袍の使い分けが行われるようになり、さらに行事の場に応じて使用される武具や装束が多岐にわたるため、装束に関する知識と理解が必要とされました。

神護寺蔵「伝源頼朝像」との関連

この書はまた、神護寺に所蔵されている「伝源頼朝像」とも関連があります。20世紀後半以降、この像の成立や描かれている人物に関する論争が起こりましたが、近藤好和は『次将装束抄』を基にこの作品を解析しました。その結果、鎌倉時代前期の作品であることに矛盾はないとの結論に至りました。像には特定の文様が施されており、これにより像主は武官である可能性が高いと考えられましたが、年齢や公卿としての昇進の時期を考慮すると、伝源頼朝像が本書の記述対象外であるという見解もあります。

結論

『次将装束抄』は、藤原定家によって編纂された唯一無二の貴重な文献であり、近衛次将の装束や作法に関する知識を深めるために欠かせない資料です。この書を通じて、当時の社会や文化、儀式の重要性を感じることができ、特に鎌倉時代の政治的動向や社会の構造に対する洞察を得ることができます。

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