次郎物語

次郎物語

『次郎物語』（じろうものがたり）は、日本の作家下村湖人による長編教養小説です。本作は全五部から構成されており、未完の状態であることが特徴です。1936年に大日本連合青年団の機関誌『青年』に第一部が連載され、1941年に単行本として出版されました。その後、1942年から1949年にかけて、第二部から第四部までが小山書店の「新風土」に連載されており、最後の第五部は1953年から1954年にかけて「大法輪」に連載されました。

概要

本作では、幼少期に里子に出された主人公・本田次郎の成長過程が描かれています。彼の成長は、家庭や学校といった生活環境での経験を通じて展開され、特に第三部までは彼の人格的成長が主なテーマとなっています。その後、五・一五事件や二・二六事件といった軍国主義的な時代背景が物語に影響を及ぼすようになり、第四部以降は主人公の精神的な恋愛にも焦点が当たります。

下村湖人自身の里子体験が反映されていることから、作品には自伝的な要素が多く含まれています。また、児童文学としても広く読まれるため、次世代に向けた教訓や価値観も表現されています。

キャラクターたち

次郎を中心に、多くのキャラクターが登場します。次郎は士族・本田家の次男として生まれ、幼少期から尋常小学校の校長の妻であるお浜の元で育てられました。この家庭環境が、次郎の心の成長や家族との関係に大きく影響を与えています。

次郎の母・お民は、彼が自分のもとに戻るように願いはしますが、次郎はお浜に強く惹かれ、実家から心を遠ざけてしまいます。実家では祖母・おことから差別的な扱いを受け、次郎は葛藤に見舞われることになります。

次郎の父・俊亮や兄の恭一、弟の俊三も登場し、家族の絆が探求されます。また、次郎の親友である青木竜一や幼なじみの由夫なども物語の中で重要な役割を果たし、次郎の成長に寄与する存在となります。

物語の展開

次郎は、里子としての生活から戻された後、家族との関係に苦しむことになります。差別的な扱いを受けていた彼は、常に祖母や兄弟たちとの摩擦に直面し、内面的にはある種の反抗心とアイデンティティの探求を続けます。特にお民との関係は、物語の中で非常に重要なテーマであり、彼女の病気を介して徐々に和解に向かう様子が描かれています。

お民が危篤となった際、次郎は看病をしながら母との絆を深め、最終的には彼女の死を受け入れることで成長を遂げます。これにより、彼は家族の重要性や愛情についての理解を深め、精神的に成熟していくのです。

未完の作品として

作品は五部構成で計画されていたものの、下村湖人が1955年に亡くなったため、未完に終わっています。唯一残された第五部の「あとがき」には、戦争末期の次郎を描く計画が記されていますが、その実現を見ることはできませんでした。

『次郎物語』は、その内容やテーマが多面的であり、さまざまな世代にわたる教訓を読み取ることができる作品です。日本文学の中で重要な位置を占めるこの作品は、今なお多くの読者に親しまれています。

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