歌川派

歌川派：江戸時代の浮世絵界を彩った巨匠たち

歌川派、別名歌川一門は、江戸時代後期から明治時代にかけて隆盛を極めた浮世絵師集団です。芝居小屋や役者たちと密接な関係を築き、役者の似顔絵を錦絵として制作することで、宣伝効果を生み出しました。その芸術性は西洋にも伝わり、ゴッホなどの印象派画家にも影響を与えたとされています。

歌川派の系譜：奥村政信から明治への継承

歌川派の起源は、浮世絵の祖とも称される奥村政信にまで遡ります。奥村政信の作品は、正確な遠近法を用いていない点が特徴的です。歌川派の祖である歌川豊春も空間の奥行き表現に取り組みましたが、西洋の投影図法を厳密に踏襲したわけではありませんでした。

歌川豊春(1735-1814)を祖とし、歌川豊国(1769-1825)や歌川豊広(1774-1830)らがその名を馳せました。特に歌川豊国は、役者似顔絵師として絶大な人気を誇り、芝居好きな女性や子供たちが肌身離さず持ち歩くほどでした。文化年間には画風が大きく変化し、目や鼻を強調した鋭角的な輪郭線が特徴となりました。この画風は、同時代の歌川国貞らにも影響を与えています。文政年間には美人画でも名を馳せ、服飾品や猫をモチーフにした作品も残しています。幕府からも特権を与えられ、その勢力は大きくなっていきました。

歌川豊国は多くの弟子を育てましたが、その中でも歌川国直、歌川国政、歌川国芳、歌川国貞といった弟子たちはそれぞれ独自の画風を確立し、歌川派の隆盛に大きく貢献しました。歌川豊重は豊国の門人で、一時二代目豊国を名乗りましたが、歌川国貞の台頭により三代目豊国となった歌川国貞にその座を譲ることになります。歌川国鶴（もう一人の四代目豊国）は、豊重の甥にあたる人物で、横浜港や横浜商館を描いた作品を残しています。

歌川国貞は美人画、歌川国芳は武者絵、歌川広重は風景画で知られています。歌川広重は、一点透視図法や二点透視図法を駆使し、名所や街道を描いた作品で高い評価を得ました。

幕末から明治時代：新たな潮流と衰退

幕末期には、歌川国貞や歌川国芳を中心に歌川派は一大勢力を築きました。多くの弟子を抱え、錦絵を独占するほどの影響力を持っていました。しかし、明治時代に入ると写真技術の発達により浮世絵の需要は減少していき、歌川派もその勢力を失うこととなります。

明治維新後、歌川一門は横浜に移り住み、絵画や絵菓子の販売で生計を立てていました。入れ墨禁止令が出された際には、入れ墨の下絵を描く仕事で繁盛した時期もありました。しかし、一門のしきたりは次第に消滅していき、歌川派は歴史の幕を閉じました。

歌川派の組織と家紋

歌川派には150名以上の絵師が所属していました。技量が認められれば歌川姓を名乗り、歌川一門独自の「年之丸」家紋を使用することが許されました。この家紋は、血筋を示すものではなく、分かりやすさが特徴で、紋付の着物は当時の芝居小屋の入場券代わりにもなっていました。「髭年之丸」という家紋は宗家とその跡取りのみが使用を許されていました。

歌川派の絵師たちは、自らを「画工」と称し、大衆と密着した作品作りを心掛けていました。

歌川派の版木と作品

錦絵の版木は、再利用されたため現存するものは少ないですが、国立歴史民俗博物館には多くの歌川派の版木が残されています。これらの版木から、使用された顔料の分析も行われ、黒は炭、赤は酸化鉛、青はプルシアンブルー、黄はプルシアンブルーに硫黄を混ぜたものだったことが分かっています。

歌川派の作品を鑑賞できる場所

現在では、多くの美術館や博物館で歌川派の作品を鑑賞することができます。長野県大町市にある「ゴッホが愛した歌川派（浮世絵）美術館」は、歌川派の作品を専門に展示する美術館です。また、各地で歌川派をテーマとした企画展が開催されています。

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