正宗十哲

正宗十哲とは

正宗十哲（まさむね じってつ）とは、鎌倉時代末期に活躍した相模国の刀工、正宗の高弟と伝えられる10名の刀工たちのことです。彼らは、正宗の作風である「相州伝」を継承し、後世の刀工たちに大きな影響を与えました。ただし、作刀年代などから、必ずしも全員が正宗の直接の弟子であったとは限りません。

正宗十哲の構成

古来より「正宗十哲」として知られる刀工は以下の通りです。正宗の養子である貞宗を除き、石州直綱を含める説もあります。

貞宗
備前長船兼光
備前国長義
左文字（筑前国）
来国次（山城国）
長谷部国重（山城国）
郷義弘（越中国）
越中国則重
志津三郎兼氏（美濃国）
美濃国金重
* 石州直綱

ただし、来国次や石州直綱を除き、代わりに金剛兵衛盛高（筑前国）を含める説もありますが、一般的ではありません。

相州伝の特徴と正宗の作風

正宗に代表される相模鍛冶の作風は「相州伝」と呼ばれています。その特徴は、一般に「沸（にえ）の美」にあるとされています。沸とは、鋼を鍛える際に現れる微細な粒状の結晶のことで、これが刀身の地鉄や刃文に現れることで、独特の美しさを生み出します。正宗の作刀は、硬軟の鋼を組み合わせて地鉄にも変化があり、刃文は「湾れ（のたれ）」という大模様の波形を基調とするものが多く見られます。また、「地景」「金筋」「稲妻」といった、地刃の働きに富んだ表現も特徴的です。

正宗の作風は、当時の日本各地の刀工たちに影響を与え、相州伝風の地鉄や刃文を特色とする刀工が数多く輩出しました。

正宗十哲の出自と作風

「正宗十哲」という名称は、実は幕末になってから作られたものであり、この10名が全員正宗の直弟子であったとは限りません。例えば、美濃国の志津兼氏は大和国の手掻派の出身であり、正宗の弟子とされています。一方、備前国の長義などは、現存する年号銘入りの作刀年代から、正宗と直接の師弟関係があったとは考えにくいとされています。また、越中国則重は相州鍛冶の祖である新藤五国光の弟子で、正宗とは兄弟弟子にあたるとする説が有力です。

しかしながら、これらの刀工はいずれも南北朝時代（14世紀）に活躍し、作風は沸出来の相州風が強いという共通点があります。彼らが直接的、間接的に正宗の影響を受けていたことは疑いようがありません。鎌倉時代以降の備前刀は一般に匂出来を主とするのが特徴ですが、長義は備前刀工の中では例外的に沸の強い相州風の作風を持ち、兼光も後期の延文頃には湾れ刃を主体とした相州風の作品を残しています。

まとめ

正宗十哲は、正宗の作風を継承し、その技術をさらに発展させた名工たちです。彼らの作品は、日本の刀剣史において重要な位置を占めており、現在でも多くの人々を魅了し続けています。正宗十哲の存在は、正宗の偉大さを物語るとともに、日本の刀剣文化の奥深さを象徴していると言えるでしょう。

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