則重

則重 - 鎌倉時代を代表する刀工

則重は、鎌倉時代末期に活躍した越中国（現在の富山県）の刀工です。佐伯則重、あるいは出身地から呉服郷則重とも呼ばれています。古来より正宗十哲の一人に数えられ、正宗の高弟と伝えられてきましたが、近年の研究では、新藤五国光や藤三郎行光といった名工との繋がりも指摘されています。作風は大和伝の影響が強く、相州伝上工としての高い技量も併せ持っていました。郷義弘の師と推測されている点も興味深いところです。

則重の系譜と時代背景

則重の師について、いくつかの文献に記述が見られます。『能阿弥本銘尽』や『正安本銘尽』では正宗の弟子とされていますが、『喜阿弥本銘尽』では新藤五国光の弟子、あるいは正宗の同門とする説もあります。現存する則重の作品には、正和三年（1314年）銘の短刀（個人蔵）があり、『光山押形』には延慶三年（1310年）の年紀を持つ作品も記録されています。一方、新藤五国光の作品には正和四年（1315年）銘の短刀（黒川古文化研究所蔵）が存在するため、年代的に新藤五国光の弟子という説が有力視されています。これらの史料を総合的に判断することで、則重の活動時期や師匠、そして当時の刀工集団との関係性をより深く理解することができるでしょう。

則重の作風

則重の作品は、太刀と短刀が多く、薙刀も確認されています。太刀は鎌倉時代末期の特徴である踏ん張りのついた腰反りの強い姿が一般的です。切先は伸びやかで、先端にかけて伏せごころのない、力強い造形となっています。短刀は8寸前後と小ぶりながら重ねが厚く、身幅は狭く、反りは強く、鋭い刃文が特徴です。この特徴的な反りを「筍反り」と呼びます。また、茎は振袖茎と呼ばれる形状をしているものが多いのも特徴の一つです。

地鉄は細かくよく練られており、黒味を帯びた大板目肌に杢目が交じり、肌立ちが良いのが特徴です。多くの則重の作品は、長年の研磨により地鉄の肌目が目立ち、ゴツゴツとした松の皮が幾重にも重なっているように見えることから、「則重の松皮肌」と呼ばれています。地沸は大きく厚くつき、丸みのある湯走りが刃の中に入ります。鍛え肌に沿って地景が現れ、刃文に入り込み、金筋や稲妻のような模様となります。

刃文は直刃に小湾れを交えたものが基本で、刃縁には荒沸がつき、刃中には小沸が微塵に現れ、沸裂が見られます。刃縁に沿って金筋や砂流しが入ることが多く、打ちのけと呼ばれる技法も見られます。匂口は沈みごころで沸が強いため、地刃の境が不明瞭なものが多いです。帽子は乱れこみ焼き詰めとなるものと、深く返るものがあります。

則重の作品と現状

則重の作品は、その高い技術力と稀少性から、国宝や重要文化財に指定されているものが多数存在します。

国宝:

短刀 銘則重（号　日本一）（永青文庫）：健全さが群を抜いており、「日本一則重」と呼ばれる傑作です。

重要文化財:

太刀 銘則重（福井・藤島神社）
太刀 銘則重（個人蔵）
刀 無銘伝則重（所在不明）
刀 無銘伝則重（所在不明）
刀 金象嵌銘則重磨上之本阿（花押）（大阪・法人蔵）
短刀 銘則重（大倉集古館）
短刀 銘則重（所在不明）
* 短刀 銘則重（大阪・法人蔵）

2014年と2015年の文化庁による所在確認調査では、いくつかの作品が所在不明とされています。

まとめ

則重は、鎌倉時代を代表する名工の一人です。その作風は、大和伝と相州伝の両方の影響を受け、独自の境地を開拓したと言えるでしょう。国宝や重要文化財に指定された数々の作品は、彼の卓越した技量と芸術性を後世に伝えています。今後の研究によって、その生涯や師系、そして当時の刀工界における位置づけがさらに明らかになることが期待されます。

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