正当行為

正当行為とは

正当行為とは、刑法上の違法性阻却事由の一つであり、形式的には犯罪の構成要件に該当する行為であっても、法秩序全体の見地から許容される行為を指します。これは、法令に基づく行為や、業務上正当と認められる行為（正当業務行為）として理解されます。

日本法における正当行為

日本の刑法では、正当行為は刑法35条に規定されており、違法性阻却事由として扱われます。具体的には、以下の2つに分類されます。

1. 法令による行為:
法令に定められた行為であり、その行為が犯罪の構成要件に該当する場合でも、違法性が否定されます。
例：刑事訴訟法に基づく逮捕、消防吏員による消火活動における建造物の破壊、警察官による逮捕時の発砲、司法解剖、刑務官による死刑執行、自衛隊による防衛出動時の武力行使など。

2. 正当業務行為:
法令に明記されてはいませんが、社会通念上、業務として正当と認められる行為です。
例：医師による手術や治療、格闘技選手がルールに従って行う試合中の行為、理容師や美容師による調髪など。

正当業務行為の判断は、個別のケースによって異なり、判例によって判断されることが多いです。

正当行為の具体例

以下に、正当行為の具体例を挙げます。

法令による行為

消防吏員や消防団員が、消火や救助活動のために建物や車両を破壊する行為。
警察官が、令状に基づいて捜索や逮捕を行う際に、建物や車両を破壊して突入する行為。
警察官が、逮捕時に抵抗を抑止するために発砲する行為。
司法解剖。
刑務官が死刑を執行する行為。
自衛隊が、武力攻撃を受けた際に、防衛出動命令に基づき武力を行使する行為。

正当業務行為

力士、ボクサー、プロレスラーなどの格闘技選手が、試合中にルールに従って相手を攻撃し、怪我をさせても、原則として傷害罪に問われない行為（リング禍）。
医師が、患者の治療のために薬剤を投与したり、外科手術を行う行為。
理容師や美容師が、顧客の調髪を行う行為。
罪を犯した高校生を教会に匿い、警察に任意出頭させた牧師の行為が、牧会活動として正当業務行為と認められた裁判例。

正当行為に関する議論

安楽死、尊厳死、報道機関による取材、労働争議などが、正当業務行為に当たるかどうかは、議論の余地があり、判例でも意見が分かれています。これらの行為は、社会的に重要な側面を持つ一方で、倫理的な問題や法的リスクも孕んでいるため、慎重な判断が求められます。

まとめ

正当行為は、社会生活において必要不可欠な行為を保護する重要な概念です。しかし、その範囲は明確に定義されているわけではなく、個別の状況や社会情勢によって解釈が変化する可能性があります。そのため、正当行為に関する理解を深め、その適用範囲を適切に判断することが重要です。

もう一度検索