正教会暦

正教会暦とは

正教会暦は、正教会における典礼生活の基盤となる暦であり、信者の信仰生活における一定の様式を定める役割を担っています。この暦は単なる時間計測の道具ではなく、「時の成聖」を通じて、過去の出来事を現代に甦らせ、信者を霊的な現実に引き込む力を持っています。

暦の構成

正教会暦は、復活大祭（パスハ）を中心に構成される動暦と、日付が固定されている不動暦の二つから成り立っています。

動暦: 復活大祭の日付に応じて、毎年変動する祭日（移動祭日）が含まれます。たとえば、聖枝祭や五旬祭などがこれに該当します。
不動暦: 毎年同じ日付に祝われる祭日（固定祭日）が含まれます。生神女誕生祭や主の降誕祭などがこれにあたります。

祭と斎

正教会暦には、祭（まつり）と斎（ものいみ）という二つの重要な要素があります。祭は神の恩恵を喜び祝う時であり、斎は祭に備えて自己を清める時です。祭が大きいほど、斎も厳格になる傾向があります。

斎 は、特定の食品の摂取を制限する、または一日断食するなどの方法で行われます。この過程を通じて、信者は精神的な充実を求めます。

祭の分類

祭は規模に応じて、大祭、中祭、小祭の三つに分類されます。特に、十二大祭は正教会全体で大きく祝われますが、復活大祭は別格の祭とされ、十二大祭には数えられません。

十二大祭

動暦に属する大祭:

聖枝祭
復活大祭（パスハ）
升天祭
五旬祭

不動暦に属する大祭:

生神女誕生祭
十字架挙栄祭
生神女進堂祭
主の降誕祭
神現祭
主の迎接祭
生神女福音祭
顕栄祭
生神女就寝祭

中祭と小祭は、地域によって祝われ方が異なり、特定の聖人が祀られる祭は、その地域で特に盛大に祝われることがあります。

動暦の詳細

動暦は復活大祭を基準として、その日付に応じて他の祭日の日付が移動します。大斎や八調経を用いた週ごとの典礼も、復活大祭に連動して設定されます。復活大祭に備えるための大斎期間や、その後の光明週間、復活祭期などが動暦に含まれます。

不動暦の詳細

不動暦は日付が固定されており、毎年同じ日に祝われます。正教会暦は9月1日に始まるため、不動暦の祭日は9月から順番に並んでいます。

不動暦の主な祭日（ユリウス暦/修正ユリウス暦）：

生神女誕生祭（9月21日 / 9月8日）
十字架挙栄祭（9月27日 / 9月14日）
生神女庇護祭（10月14日 / 10月1日）
生神女進堂祭（12月4日 / 11月21日）
主の降誕祭（1月7日 / 12月25日）
主の割礼祭（1月14日 / 1月1日）
神現祭（1月19日 / 1月6日）
主の迎接祭（2月15日 / 2月2日）
日本の亜使徒聖ニコライ祭（2月16日）
生神女福音祭（4月7日 / 3月25日）
前駆授洗イオアン誕生祭（7月7日 / 6月24日）
首座使徒ペトル・パウェル祭（7月12日 / 6月29日）
主の顕栄祭（8月19日 / 8月6日）
生神女就寝祭（8月28日 / 8月15日）
前駆授洗イオアン斬首祭（9月11日 / 8月29日）

ユリウス暦と修正ユリウス暦

正教会では、ユリウス暦と修正ユリウス暦の二つの暦が使用されています。ユリウス暦を使用する教会では、グレゴリオ暦との間に13日のずれが生じています。そのため、例えば主の降誕祭はユリウス暦では12月25日ですが、グレゴリオ暦では1月7日に祝われます。一方、修正ユリウス暦はグレゴリオ暦とのずれがほとんどなく、固定祭日はグレゴリオ暦と同じ日付で祝われます。ただし、復活大祭の日付を計算する際には、ほとんどの正教会でユリウス暦が使用されます。

正教会暦の意義

正教会暦は、信者の信仰生活に以下のような重要な意義をもたらします。

信仰生活の規範: 時課に拠る祈りのパターンを通じて、信者に一定の生活様式を習得させます。
時の成聖: 暦に沿って信仰生活を送ることで、時を神と結びつけ、意味のあるものにします。
過去の出来事の現代化: 過去に起きた出来事を単なる追憶ではなく、現代の体験として捉えることで、信者を霊的な現実に引き込みます。

正教会暦は、単なる時間管理の道具ではなく、信仰生活を豊かにし、神との結びつきを深めるための重要な要素です。

もう一度検索