正高信男

正高 信男（まさたか のぶお）は、1954年12月10日生まれの日本の研究者です。大阪府出身で、比較行動学、霊長類学、発達心理学を専門としています。特に、認知神経科学やヒトを含めた霊長類のコミュニケーションに関する研究に深く関わりました。

彼の学歴は、1976年に大阪大学人間科学部行動学専攻を卒業したことから始まります。その後、1982年には同大学大学院人間科学研究科の博士課程を修了し、「ゲルディモンキーの音声伝達行動に関する比較行動学的研究」で学術博士の学位を取得しました。

研究者としてのキャリアは多岐にわたり、国内外の著名な研究機関で経験を積みました。アメリカ国立衛生研究所での客員研究員や、ドイツのマックス・プランク精神医学研究所での研究員として活動しました。日本国内では、京都大学霊長類研究所や東京大学理学部で助手として勤務した後、再び京都大学霊長類研究所に戻り、助教授を経て教授に昇進しました。長年にわたり研究教育に携わった後、2020年に京都大学を定年退職しました。

しかし、退職後に彼の研究活動における重大な問題が明らかになります。2021年10月15日、京都大学は正高氏が2014年から2019年にかけて発表した4本の論文について、実験が行われた事実がない「捏造」であると認定したことを公表しました。大学の調査によると、これらの論文では大麻に含まれる合法成分であるカンナビジオールを18歳から19歳の男女に投与する実験を行ったと記述されていましたが、実験に参加したとされる被験者への確認で参加の事実が認められず、研究に必要な物資の購入実績も実験規模に見合わないことが判明したため、大学は実験自体が行われていないと判断するに至りました。大学側の聞き取り調査に対し、正高氏は協力を拒否し、実験の根拠となるデータも提出しませんでした。

この研究不正の認定を受け、京都大学は2022年1月25日、正高氏に対し懲戒解雇に相当する処分を決定したと発表しました。大学は不正調査の開始に伴い、正高氏への退職金の支給を一時的に停止していましたが、今回の処分決定により退職金は不支給となることが確定しました。京都大学は、正高元教授が研究不正に関する調査に協力せず、また今回の処分を決定するための手続きにおいても大学からの連絡に全く応じなかったことを明らかにしています。

多岐にわたる研究活動に加え、一般向けの啓蒙書も多数執筆しており、主な著書として以下が挙げられます。

『ことばの誕生 行動学からみた言語起源論』紀伊國屋書店 1991
『0歳児がことばを獲得するとき 行動学からのアプローチ』中公新書 1993
『なぜ、人間は蛇が嫌いか 入門・人間行動学』光文社・カッパ・サイエンス 1994
『ヒトはなぜ子育てに悩むのか』講談社現代新書 1995
『赤ちゃんの誕生の科学』PHP新書 1997
『いじめを許す心理』岩波書店 1998
『育児と日本人』岩波書店 1999
『老いはこうしてつくられる こころとからだの加齢変化』中公新書 2000
『ヒトの本能ってなに? 心とからだの不思議』清流出版 2000
『子どもはことばをからだで覚える メロディから意味の世界へ』中公新書 2001
『ボケの前兆をつかまえた』紀伊國屋書店 2001
『0歳からの子育ての技術 「赤ちゃんとの会話」から「知性を伸ばす遊び方」まで』PHP研究所 2002
『父親力 母子密着型子育てからの脱出』中公新書 2002
『ケータイを持ったサル 「人間らしさ」の崩壊』中公新書 2003
『親になる技術』PHP研究所 2004
『天才はなぜ生まれるか』ちくま新書 2004
『人間性の進化史 サル学で見るヒトの未来』日本放送出版協会 2004
『二人目の母親になっている日本の男たち』主婦の友社 2004
あかちゃんすくすく絵本（鈴木出版 あきやまただし絵）2004 シリーズ
『考えないヒト ケータイ依存で退化した日本人』中公新書 2005
『他人を許せないサル IT世間につながれた現代人』講談社・ブルーバックス 2006
『ヒトはいかにヒトになったか ことば・自我・知性の誕生』岩波書店 2006
『ヒトはなぜヒトをいじめるのか いじめの起源と芽生え』講談社・ブルーバックス 2007
『ウェブ人間退化論 「社会のIT化」は「サル化」への道!?』PHP研究所 2008
『天才脳は「発達障害」から生まれる』PHP新書 2009
『ゲームキャラしか愛せない脳』PHP新書 2010
『団塊のジジババが日本をダメにする』潮出版社 2011
『コミュ障 動物性を失った人類』講談社・ブルーバックス 2015

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