武 (倭王)

倭王武（わおうぶ）とは

倭王武（生没年不詳）は、5世紀後半の倭（日本）の王であり、中国の史書に記録された「倭の五王」の最後の王です。兄の興の死後、王位を継承し、中国の南朝に遣使して、その存在を認めさせました。特に、『宋書』には、武が自らを「使持節 都督倭・百済・新羅・任那・加羅・秦韓・慕韓七国諸軍事 安東大将軍 倭国王」と称したと記されています。

史書における記述

『宋書』には、武が478年に宋に使節を派遣し、上表文を奉ったことが記録されています。その上表文では、「東は毛人55国を征し、西は衆夷66国を服す。渡りては海北95国を平ぐ」と、大和朝廷の勢力拡大を誇示する内容が述べられています。また、父である済の名前を挙げ、長年の悲願を訴えています。この上表文の内容は、当時の倭の勢力や国際情勢を理解する上で非常に重要な史料となっています。

『南斉書』や『梁書』では、武が南斉や梁の建国時に、それぞれ「鎮東大将軍」や「征東大将軍」に任じられたことが記されています。しかし、これらの任官は王朝の交代に伴う儀礼的なものであり、当時の倭王の実際の地位や権威を反映しているかは議論の余地があります。

天皇系譜との関連

『日本書紀』や『古事記』における天皇系譜との関連では、武を第21代雄略天皇とする説が有力です。稲荷山古墳から出土した鉄剣銘文や江田船山古墳から出土した銀象嵌銘大刀銘文に記された「獲加多支鹵大王（ワカタケル大王）」という名前が、雄略天皇の和風諡号である「オオハツセワカタケル」と対応していると考えられているからです。また、上表文にある「奄喪父兄（にわかに父兄を失う）」という記述は、記紀における允恭天皇・安康天皇の相次ぐ死去という伝承と対応しているとも指摘されています。

しかし、『日本書紀』には宋への遣使の記述がなく、武の遣使年次も『日本書紀』の雄略天皇の年次とは合致しないなどの矛盾点もあります。また、「武」を「タケル」と読むことについても異論があり、仮借が通例であった当時の読み方を考慮する必要があるという意見もあります。

武の時代とその後の倭

稲荷山古墳出土の鉄剣銘文に「治天下大王」の概念が認められることや、武が上表で役人の任官を求めていないことなどから、武の時代には倭が中国の冊封体制に依存せずに王権を維持できるようになったとする説もあります。武の死後、倭からの遣使がしばらく途絶えることから、倭の国際的な地位に何らかの変化があった可能性も考えられます。

墓の比定

倭の五王の活動時期には、百舌鳥古墳群や古市古墳群に大王墓が築造されていたことから、武の墓もこれらの古墳群のいずれかにあると考えられています。特に、岡ミサンザイ古墳（現在の仲哀天皇陵）に比定する説が有力視されています。

まとめ

倭王武は、5世紀後半の倭を代表する王であり、その存在は中国の史書によって裏付けられています。その治世は、大和朝廷が勢力を拡大し、国際的な地位を確立していく上で重要な時期であり、その実像については今なお多くの議論がなされています。武の研究は、古代日本の歴史を解き明かす上で欠かせない要素となっています。

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