古市
古墳群は、
大阪府羽曳野市と
藤井寺市にまたがる広大な
古墳群です。東西約2.5キロ、南北約4キロの範囲に123基(現存87基)の
古墳が点在し、その中には墳丘長200メートルを超える大型前方後
円墳も含まれています。この
古墳群は、20基が国の
史跡に指定され、27基が
宮内庁によって
天皇陵や皇族墓などに治定されています。
古墳群の構成と特徴
古市
古墳群は、大きく北部の古い
古墳群と南部の新しい
古墳群に分けられます。北部の
古墳群には、誉田御廟山
古墳(伝応神陵)や仲津山
古墳(伝仲津姫陵)などがあり、南部の
古墳群は、前ノ山
古墳(白鳥陵)を中心として、前方部が著しく発達した
古墳が特徴的です。
古墳の相対的な序列としては、仲津山
古墳を筆頭に、誉田御廟山
古墳、仲津山
古墳、津堂城山
古墳、市ノ山
古墳、墓山
古墳、河内大塚
古墳、前ノ山
古墳、ボケ山
古墳、白髪山
古墳、高屋城山
古墳が続くと考えられています。
古墳の造営には、豪族である
土師氏などが深く関与していたと推測されています。
2008年には、百舌鳥
古墳群とともに
世界遺産の国内暫定リストに追加され、歴史学や考古学の研究者からは、
天皇陵
古墳の公開や
発掘調査につながるとして期待が寄せられました。
2019年には、26基が世界
文化遺産に登録されています。
古墳の形状は、前方後
円墳が31基(現存26基)、
円墳が30基(現存5基)、方墳が48基(現存22基)、墳形不明が14基(現存34基)と、多様性に富んでいます。河内大塚山
古墳を古市
古墳群に含める説もあります。
史跡指定と追加
現存する
古墳のうち、14基が
2001年に国の
史跡に指定されました。この指定は、それまでに個別に
史跡指定されていた
古墳を統合し、新たに青山
古墳と蕃所山
古墳を追加したものです。その後も、稲荷塚
古墳、東山
古墳、割塚
古墳、唐櫃山
古墳、松川塚
古墳、浄元寺山
古墳、白鳥陵
古墳(軽里大塚
古墳)周堤、
仲姫命陵
古墳(仲ツ山
古墳)周堤が追加指定され、
史跡「古市
古墳群」は計22基となっています。
古市の大溝
1968年に航空写真によって発見された「古市の大溝」は、幅20~30メートルの大規模な溝で、前方後
円墳の墳丘間を縫うように走っています。この大溝は、『日本書紀』に記された「感玖(こむく)の大溝(おおうなで)」であると推定されており、
古墳群形成の過程で掘削され、数度の改築を経て、8世紀には一部が埋没しました。1978年には、三ツ塚
古墳から古代の運搬具である修羅が出土し、話題となりました。
古市
古墳群を含む百舌鳥・古市
古墳群は、
世界遺産に求められる「顕著な普遍的価値」として、
古墳の墳丘形態が日本各地のモデルとなり、
副葬品や埴輪にも影響を与え、
古墳文化の中心地であったことが挙げられました。また、前方後
円墳の独特な形態と築造
技術が、高度な土木
技術の存在を示す証拠であると評価されました。
文化庁は、4~
6世紀にかけて日本各地に造営された
古墳群は、百舌鳥・古市
古墳群を規範とし、
古墳時代の価値観の交流を示しているとコメントしました。さらに、巨大
古墳の周囲に多様な
古墳を配置していることが、当時の政治的・社会的支配の実態を反映していると指摘しました。国際シンポジウムでは、造墓における巨大化や
来世観が、古代
中国の価値観が
東アジアに広まった証であり、百舌鳥・古市
古墳群の王墓は、その倭風(和風ではない)化された価値観を示していると評価されました。
2019年、ユネスコの諮問機関は、百舌鳥・古市
古墳群を世界
文化遺産に登録することを勧告しました。
課題と対策
世界遺産推薦の過程では、
古墳群の階層性や、被葬者の特定、
東アジア文化史における
古墳文化の特質、墳丘上の
植生管理など、多くの課題が指摘されました。特に、
天皇陵とされている
古墳の扱いが、皇室用財産であるため
文化財指定が困難であることや、百舌鳥
古墳群と古市
古墳群を一体として捉える理由が不明確であることが問題視されました。
これらの課題を踏まえ、構成資産の見直しや法的保護根拠の整備が行われました。また、
古墳群間の移動に関しては、
レンタサイクルの活用が推進されることになりました。
多様な価値観
古墳の周囲に巡らされた濠の存在は、
東アジアでは珍しく、
水稲
稲作の普及と
王権の関係や、濠の
水が
灌漑に役立てられていた可能性といった実利的な側面から、
古墳群の独自性が評価されています。
また、前方後
円墳が日本独自のものではないという説については、ユネスコが重視する文化循環の証拠として捉え、日韓の
文化摩擦を解決する手段として、その文化的価値を高めるという斬新な見解も示されています。
さらに、
古墳周辺に迫る住宅景観は、
古墳が墓であるという畏怖の念から、開発を免れてきたという日本人の宗教観による保護感覚を示すものとして、評価されています。
交通アクセス
近鉄南大阪線道明寺駅または古市駅が最寄りの駅です。
関連情報
古市
古墳群に関するより詳しい情報は、以下の外部リンクからご覧ください。
ライブラリー古市古墳群 - 藤井寺市
古墳分布状況 - 航空写真(
羽曳野市提供)、イラスト(
藤井寺市)
百舌鳥・古市古墳群 - 百舌鳥・古市古墳群世界文化遺産登録推進本部会議
古市古墳群の緩衝地帯の保全について
羽曳野市 (PDF)