武田元明

武田元明：若狭武田家を背負い、戦国の波に翻弄された武将

武田元明（たけだもとあき）は、戦国時代から安土桃山時代にかけて生きた武将であり、若狭国の守護大名でした。若狭武田氏の第9代当主として、激動の時代を駆け抜けました。その生涯は、有力大名との関係に翻弄され、悲劇的な結末を迎えます。

生い立ちと不安定な家督相続

武田元明は、天文21年（1552年）または永禄5年（1562年）に、若狭武田氏の当主・武田義統の子として生まれました。母は室町幕府12代将軍・足利義晴の娘であり、足利義輝・義昭の妹と推定されています。幼名は孫犬丸と名付けられました。

永禄9年（1566年）、次期将軍の座を狙う足利義昭が、若狭武田氏の庇護を求めて若狭に身を寄せました。しかし、義統に反発する家臣たちが元明を擁立して抵抗したため、義昭は上洛を断念し、越前国の朝倉義景を頼ることになります。

永禄10年（1567年）4月、父・義統の死去により、元明は家督を継いで当主となりました。しかし、当時の若狭国内は非常に不安定な状況でした。かつて応仁の乱で副将を務めた若狭武田氏はすでに衰退しており、家臣たちはそれぞれ独立した動きを見せていました。若狭守護代の内藤氏、有力被官の逸見昌経、粟屋勝久、熊谷直澄らは、それぞれ独自の拠点を築き、守護大名家の支配から離反していたのです。

朝倉氏による支配と織田信長の台頭

永禄11年（1568年）、朝倉義景が若狭に侵攻し、国吉城や手筒山城などを攻略しました。朝倉勢は後瀬山城を包囲し、元明は自害を覚悟しましたが、家臣に説得され、朝倉氏のもとに身を寄せることになります。表向きは親族としての保護でしたが、実際には一乗谷に強制的に移住させられ、傀儡としての立場を強いられました。これにより、若狭は実質的に朝倉氏の支配下に入ったと言えるでしょう。

若狭武田氏は朝倉氏に従属し、国人衆は武田家再興の機会を待ちました。しかし、逸見氏や粟屋氏、熊谷氏などは完全に服従せず、織田氏の勢力が近江国に及ぶと、織田信長に通じました。

元亀元年（1570年）1月、信長は元明に上洛を促しました。同年4月、信長が越前に侵攻すると、若狭の粟屋勝久や松宮玄蕃らはこれを迎え入れ、越前への道案内を務めました。信長は重臣・丹羽長秀を守護に任じて若狭半国を与えましたが、浅井氏の離反により撤退を余儀なくされました。

信長は当初、元明を若狭国主として認める方向で動いていましたが、元明自身は越前国内に留め置かれたままでした。近年では、信長の越前侵攻は、足利義昭の意向を受けた親朝倉派の排除を目的とした若狭侵攻であり、朝倉義景がこれを容認しなかったために方向転換したとする説も提唱されています。

天正元年（1573年）、若狭一国は丹羽長秀に任され、若狭衆はその与力とされました。8月、朝倉氏が滅亡すると、元明は解放され、9月に国許に戻りましたが、長秀が後瀬山城に入っていたため、若狭神宮寺桜本坊に身を寄せました。元明は度々信長に赦しを請いましたが、無視され続けました。

織田家臣としての不遇と最期

天正3年（1575年）7月1日、元明は逸見昌経・粟屋勝久・熊谷直澄・内藤越前守・山県下野守ら家老衆を伴い、信長に謁見しました。同5年（1577年）1月14日にも年始の挨拶に訪れていますが、若狭国は丹羽長秀の支配下に置かれたままで、元明の立場は回復しませんでした。

天正9年（1581年）1月の京都御馬揃えでは、元明は逸見・粟屋・熊谷・内藤・山県らと同列に参加予定者とされていました。『信長公記』には元明の名はありませんが、若狭衆の一員として丹羽長秀の組で行進したと考えられます。3月、大飯郡高浜城の領主・逸見昌経が死去すると、信長は後嗣なしとして逸見氏の所領を没収し、その一部である大飯郡佐分利の石山城を元明に与えました。元明は若狭衆の1人として、長秀の与力となったのです。

天正10年（1582年）6月、本能寺の変で信長が死去すると、元明は若狭守護だった頃の勢力回復を狙い、若狭国衆を糾合して蜂起し、明智光秀や義兄・京極高次と通じて近江へ侵攻、丹羽長秀の本城・佐和山城を陥落させました。しかし、山崎の戦いで光秀が羽柴秀吉に敗れると、状況は一変します。

7月19日、恭順の意を示そうとした元明は長秀に招かれ、海津の宝幢院で謀殺されました。『野史』では長秀によって殺されたとされていますが、『若狭守護代記』などでは明智に加担したことを理由に秀吉の命令で自害させられたとされています。また、元明の美しき妻（竜子）を奪うために秀吉が仕向けたという俗説も存在します。いずれにせよ、元明の死によって若狭武田氏は滅亡しました。享年は21または31とされています。

子孫のその後

元明の継嗣である義勝は、武田姓を憚り津川姓を称し、親族である京極高次に仕えました。後に京極高次が関ヶ原の戦いの功により若狭一国の主となると大飯郡高浜城5,000石を与えられ、佐々木姓を称することを許され、京極家重臣に列しました。江戸時代の丸亀藩家老の佐々家はこの末裔と言われています。

木下勝俊が、武田元明と正室・京極竜子との間に生まれた男子とする説がありますが、元明の永禄5年（1562年）生誕説に従うと、勝俊や利房の父親である可能性は低いと考えられます。

武田元明は、激動の戦国時代において、若狭武田家の存続のために奔走しましたが、時代の波に翻弄され、悲劇的な最期を遂げました。しかし、その血筋は子孫によって受け継がれ、歴史の中に名を残しています。

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