武蔵富士敏

武蔵富士 敏（むさしふじ さとし）

武蔵富士 敏は、昭和47年（1972年）7月6日に栃木県佐野市で生まれた元大相撲力士である。本名を湯澤 敏（ゆざわ さとし）といい、昭和63年（1988年）3月場所の初土俵から平成18年（2006年）3月場所での引退まで、一貫して武蔵川部屋に所属した。

現役時代の体格は、身長183センチメートル、体重156キログラムという堂々たるもので、得意手は突き、押しであった。最高位は、平成8年（1996年）9月場所に記録した幕下7枚目である。通算成績は109場所で382勝353敗21休を記録した。

彼の相撲人生は、赤見中学校卒業後の昭和63年（1988年）3月場所、湯澤の四股名でスタートした。この場所では、同期入門者の中で二番目の早さで番付に名前が載る「二番出世」を果たしている。入門前は野球に打ち込んでいたという異色の経歴も持つ。

早くから才能の片鱗を見せ、昭和64年（1989年）9月場所には序ノ口で、平成11年（1999年）9月場所には序二段でそれぞれ優勝を果たしている。また、平成3年（1991年）5月場所では三段目で優勝同点となる活躍を見せ、その直後の同年7月場所には新幕下へと昇進を果たした。これは彼にとってキャリアの大きな節目となった。

武蔵富士の特筆すべき点は、力士としての番付以上の存在感であった。平成14年（2002年）5月場所から平成15年（2003年）11月場所にかけて、大相撲の結びの一番後に披露される厳かな儀式である「弓取式」を長きにわたり担当した。弓取式は力士の中でも特に選ばれた者が務める大役であり、その所作の美しさが注目される。彼はこの大役を堂々とこなし、多くのファンを魅了した。

さらに、土俵上の取組だけでなく、本場所の幕間などで披露される「相撲甚句」も担当するなど、相撲文化の伝承にも貢献した。その明るく誠実な人柄から、部屋の中でも、そしてファンからも厚い人望を集め、非常に人気のある力士であった。

趣味はテレビゲーム、血液型はB型という一面も持っていた。

長きにわたる現役生活を送り、平成18年（2006年）3月場所をもって土俵を去った。生涯の最高位は幕下であったものの、弓取式や相撲甚句といった土俵外での貢献、そしてその温厚な人柄は、多くの人々の記憶に残っている。武蔵富士 敏は、令和2年（2020年）10月10日に48歳でその生涯を閉じた。

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