武蔵陵墓地

武蔵陵墓地

東京都八王子市にある武蔵陵墓地は、日本の皇室が眠る神聖な場所です。広大な敷地には、大正天皇、貞明皇后、昭和天皇、香淳皇后という四代の天皇・皇后の陵が静かにたたずんでいます。

名称の変遷と位置づけ

武蔵陵墓地は、昭和天皇の陵が造営される以前は「多摩御陵（たまごりょう）」という名称で広く知られていました。現在でもその通称が使われることがあります。地域における重要な場所として、八王子市が選定する「八王子八十八景」の一つにも数えられています。この地の管理は宮内庁が行っており、敷地内には宮内庁書陵部多摩陵墓監区事務所が置かれています。

広大な敷地とその歴史

この陵墓地は約46万平方メートルという広大な面積を誇ります。その歴史は1927年（昭和2年）に始まります。大正天皇の陵所として、当時の東京府南多摩郡にまたがる御料地が選ばれました。この場所が選ばれた理由には、万葉集にも詠まれた「多麻の横山」という歴史的な背景に加え、地震に強く安定した地盤であるという地理的な条件が考慮されました。将来にわたって陵墓を造営できる土地として確保するため、御料地に隣接する民有地も買い上げられ、現在の広がりとなりました。敷地を整備するにあたっては、以前から存在した民家や寺社、民間の墓所などが移転されました。

陵墓地に入ると、正門から各陵へ続く約400メートルの参道が目に留まります。この参道の両側には、京都から取り寄せられた約150本の北山杉が植えられており、見事な並木道を形成しています。植樹当時は人の背丈の二倍ほどの高さでしたが、今では20メートルを超す巨木に成長し、荘厳な雰囲気を生み出しています。

四つの陵

武蔵陵墓地には、時を超えて静かに眠る四つの陵があります。それぞれの陵は、被葬者の人となりや時代背景を反映するかのように、特徴を持っています。

多摩陵（大正天皇陵）

1927年（昭和2年）に造営された、大正天皇の陵です。墳丘の形態は、奈良県の古墳にも類例が見られる上円下方墳という特徴的な形をしています。上部3段、下部3段から成り、南面しています。下部の段には多摩川の石が葺き石として使用されています。陵域には生前大正天皇が愛好された季節の草木が植えられています。「多摩陵」という陵名は、武蔵国の中心であった「多摩郡」にちなんで名付けられました。第二次世界大戦中の空襲により、陵の一部が損傷した時期があります。毎年12月25日には例祭が執り行われます。

多摩東陵（貞明皇后陵）

1951年（昭和26年）から翌年にかけて造営された、貞明皇后の陵です。形態は大正天皇陵と同様の上円下方墳です。「多摩東陵」という名は、大正天皇陵のほぼ東に位置することに由来します。陵域には、貞明皇后が生前愛好された季節の草木が植えられています。毎年5月17日には例祭が行われます。

武蔵野陵（昭和天皇陵）

1989年（昭和64年）に崩御された昭和天皇の陵です。陵は崩御後すぐに造営が進められ、翌1990年（平成2年）に完成しました。形態は上円下方墳です。大正天皇陵の北東に位置し、ほぼ南面しています。「武蔵野陵」という陵名は、昭和天皇が自然を深く愛し、御製で「武蔵野」を詠まれたことなどにちなんでいます。この陵の設計には、一般の参拝者が陵を遙拝する際に感じる威圧感を和らげるための配慮がなされています。陵域には、昭和天皇が愛好された季節の草木が植えられています。この陵の造営完了を機に、墓地全体の名称が現在の「武蔵陵墓地」へと改称されました。毎年1月7日には例祭が執り行われます。

武蔵野東陵（香淳皇后陵）

2000年（平成12年）に崩御された香淳皇后の陵です。陵は同年から翌年にかけて造営されました。形態は上円下方墳です。「武蔵野東陵」という名は、昭和天皇陵のほぼ東に位置することに由来します。陵域には、香淳皇后が生前愛好された季節の草木が植えられています。毎年6月16日には例祭が行われます。

拝所と例祭

各陵には、皇族が参拝するための皇族拝所、特別拝所、そして一般の参拝者が遙拝するための一般拝所が設けられています。参拝者はこれらの拝所から、静かに陵を遙拝することができます。

毎年、各陵では被葬者の崩御日にあたる日に例祭が執り行われます。祭典当日は陵所に幔幕が巡らされ、皇族拝所には仮屋が設けられて厳かに祭祀が行われます。

アクセス

武蔵陵墓地への最寄りの公共交通機関は、JR中央本線または京王高尾線の高尾駅です。高尾駅からは徒歩またはバスでのアクセスとなります。かつては皇室専用駅や、陵墓地へのアクセスを目的とした鉄道路線も存在しましたが、現在はいずれも廃止されています。

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