歩兵第112連隊
歩兵第112連隊（ほへいだいひゃくじゅうにれんたい）は、大日本帝国陸軍に所属した歩兵連隊の一つです。
連隊は1940年（昭和15年）9月27日に軍旗を拝受し編成されました。その後、太平洋戦争が勃発すると、戦局の推移に伴い南方戦線へ投入されます。1942年（昭和17年）1月には、ビルマ（現ミャンマー）の戦いへ参加。第3大隊がタボイを占領した後、連隊はモーラミャインの攻略に加わりました。同年4月には、援蒋ルート（中国国民党への連合国からの補給路）を遮断するため、ビルマと中国の国境方面へ進撃を開始し、トングーを占領。さらにピンマナなどへと戦線を拡大していきました。
1942年11月、北部ビルマの警備にあたっていた連隊は南部に転進し、第一次アキャブ作戦に参加しました。この作戦において、連隊はマユ川を渡河し、イギリス軍主力のイギリス第6歩兵旅団を包囲殲滅するという困難な任務を帯びて進撃しました。チズエやマユ河付近で英印軍を撃破し、1943年4月3日にはベンガル湾の海岸線へ到達。4月5日には、撤退中のイギリス第6歩兵旅団との戦闘に突入しました。激戦の末、4月6日には連隊は敵旅団司令部を急襲することに成功。旅団長のロナルド・キャベンディッシュ准将以下、司令部幕僚ら5～6人を捕虜とするという大きな戦果を挙げました。
しかし、戦闘は依然として激しく続きました。イギリス軍は北と南から連隊に対し猛烈な砲撃を浴びせ、連隊本部近くにも着弾し、連隊長の棚橋真作大佐を含む数名が負傷しました。不幸なことに、尋問しようとしていたキャベンディッシュ准将も、味方であるイギリス軍の誤射（フレンドリーファイア）により戦死してしまいました。この戦闘でイギリス第6歩兵旅団は多大な損害を被りましたが、イギリス軍は集中砲火で連隊の動きを牽制し、その隙に包囲されていた主力が小部隊に分かれて退路を見つけ、全滅を免れました。負傷していた棚橋連隊長は、この様子を見送るしかありませんでした。この戦いでは、キャベンディッシュ准将以外にも多くの捕虜を得ましたが、激戦が続く混乱の中でその対応に困惑し、一部の捕虜が殺害されたとする証言も存在します。その後も連隊は進撃を続け、プチドンを突破。第1大隊はアレサンヨウ、モンドウなどの地域を占領しました。
1944年（昭和19年）2月、連隊は第二次アキャブ作戦に参加しました。第一次アキャブ作戦での活躍が評価され、連隊は師団の主力として、アキャブ（現在のシットウェー）へ前進してくる英印軍2個師団を背後から包囲するという重要な任務を与えられました。棚橋連隊長の巧みな指揮により、英印軍の師団間の隙間を突いて敵部隊の背後へ回り込むことに成功し、シンゼイワ盆地において敵1個師団の主力を包囲するに至りました。前回に続き、第7インド歩兵師団司令部を急襲することにも成功しましたが、今回は敵師団長や幕僚に捕虜とする寸前で逃げられてしまい、連続での敵高級指揮官捕虜という大戦果を挙げることはできませんでした。
包囲した英印軍に対し、連隊は夜襲による殲滅を図りました。しかし、イギリス軍は第一次アキャブ作戦での敗戦を経て、戦力を大幅に強化しており、日本軍の包囲戦術への対抗策を編み出していました。それは、通称「アドミン・ボックス」（日本側呼称「円筒形陣地」）と呼ばれる強固な円形密集陣地でした。戦車や装甲車、機銃座を数十メートルおきに配置し、前面に鉄条網を張り巡らせたこの陣地は、日本軍の侵入を完全に阻む鉄壁の要塞と化していました。偵察でも側面への迂回は困難で、あたかも平原に突如出現したかのような様相を呈していました。そして、この孤立した陣地を維持したのは、大量の航空機による空からの補給でした。
進撃速度を優先し、重装備に乏しかった連隊には、この鉄壁の陣地に対して歩兵による夜襲を繰り返す以外に有効な戦術はありませんでした。しかし、夜間は陣地が更に集約されて強固になり、照明弾が上げられて昼間のような明るさとなり、日本軍の夜襲は文字通り「コンクリートの壁に頭をぶつける」無益な試みとなりました。連隊は多大な損害を被り、攻撃継続が困難となる中、棚橋連隊長は独断で撤退を決断しました。師団長もこれを追認し、連隊は攻撃開始地点まで後退し、体勢を立て直しました。
休養後、連隊は追撃する英印軍に対し、夜襲を駆使してその進撃を遅らせようと試みました。例えば、長井中隊は夜襲で150人もの英印兵を殺傷し、敵野営地に突入して装甲車を撃破、多数の装備品を鹵獲して帰還するなど奮闘しました。連隊は奮戦を続けましたが、英印軍の勢いを完全に止めることはできず、勇戦していた第1大隊長の松木平少佐も戦死しました。そして、常に最前線で指揮を執った棚橋連隊長自身もマラリアに倒れ、連隊長を解任されて後方へ送られ、治療のため日本本土へ帰国することとなりました。
常に最前線で戦い続けた棚橋連隊の損害は甚大で、この第二次アキャブ作戦における戦死者は2,452人に及びました。これは、連隊定数の約8割が失われた計算となり、実質的に玉砕に等しい状況であったと言えます。この作戦において、日本軍全体としては5,335人の損害（うち戦死3,106人）を被る苦戦となりましたが、英印軍にも7,951人の死傷者という多大な損害を与え、アキャブ周辺の防衛という戦略目標は達成されました。連隊はその後もビルマ戦線に留まり、1945年（昭和20年）8月の終戦を迎えるまで激戦を戦い続けました。
編成と初期の活動
連隊は1940年（昭和15年）9月27日に軍旗を拝受し編成されました。その後、太平洋戦争が勃発すると、戦局の推移に伴い南方戦線へ投入されます。1942年（昭和17年）1月には、ビルマ（現ミャンマー）の戦いへ参加。第3大隊がタボイを占領した後、連隊はモーラミャインの攻略に加わりました。同年4月には、援蒋ルート（中国国民党への連合国からの補給路）を遮断するため、ビルマと中国の国境方面へ進撃を開始し、トングーを占領。さらにピンマナなどへと戦線を拡大していきました。
第一次アキャブ作戦
1942年11月、北部ビルマの警備にあたっていた連隊は南部に転進し、第一次アキャブ作戦に参加しました。この作戦において、連隊はマユ川を渡河し、イギリス軍主力のイギリス第6歩兵旅団を包囲殲滅するという困難な任務を帯びて進撃しました。チズエやマユ河付近で英印軍を撃破し、1943年4月3日にはベンガル湾の海岸線へ到達。4月5日には、撤退中のイギリス第6歩兵旅団との戦闘に突入しました。激戦の末、4月6日には連隊は敵旅団司令部を急襲することに成功。旅団長のロナルド・キャベンディッシュ准将以下、司令部幕僚ら5～6人を捕虜とするという大きな戦果を挙げました。
しかし、戦闘は依然として激しく続きました。イギリス軍は北と南から連隊に対し猛烈な砲撃を浴びせ、連隊本部近くにも着弾し、連隊長の棚橋真作大佐を含む数名が負傷しました。不幸なことに、尋問しようとしていたキャベンディッシュ准将も、味方であるイギリス軍の誤射（フレンドリーファイア）により戦死してしまいました。この戦闘でイギリス第6歩兵旅団は多大な損害を被りましたが、イギリス軍は集中砲火で連隊の動きを牽制し、その隙に包囲されていた主力が小部隊に分かれて退路を見つけ、全滅を免れました。負傷していた棚橋連隊長は、この様子を見送るしかありませんでした。この戦いでは、キャベンディッシュ准将以外にも多くの捕虜を得ましたが、激戦が続く混乱の中でその対応に困惑し、一部の捕虜が殺害されたとする証言も存在します。その後も連隊は進撃を続け、プチドンを突破。第1大隊はアレサンヨウ、モンドウなどの地域を占領しました。
第二次アキャブ作戦
1944年（昭和19年）2月、連隊は第二次アキャブ作戦に参加しました。第一次アキャブ作戦での活躍が評価され、連隊は師団の主力として、アキャブ（現在のシットウェー）へ前進してくる英印軍2個師団を背後から包囲するという重要な任務を与えられました。棚橋連隊長の巧みな指揮により、英印軍の師団間の隙間を突いて敵部隊の背後へ回り込むことに成功し、シンゼイワ盆地において敵1個師団の主力を包囲するに至りました。前回に続き、第7インド歩兵師団司令部を急襲することにも成功しましたが、今回は敵師団長や幕僚に捕虜とする寸前で逃げられてしまい、連続での敵高級指揮官捕虜という大戦果を挙げることはできませんでした。
包囲した英印軍に対し、連隊は夜襲による殲滅を図りました。しかし、イギリス軍は第一次アキャブ作戦での敗戦を経て、戦力を大幅に強化しており、日本軍の包囲戦術への対抗策を編み出していました。それは、通称「アドミン・ボックス」（日本側呼称「円筒形陣地」）と呼ばれる強固な円形密集陣地でした。戦車や装甲車、機銃座を数十メートルおきに配置し、前面に鉄条網を張り巡らせたこの陣地は、日本軍の侵入を完全に阻む鉄壁の要塞と化していました。偵察でも側面への迂回は困難で、あたかも平原に突如出現したかのような様相を呈していました。そして、この孤立した陣地を維持したのは、大量の航空機による空からの補給でした。
進撃速度を優先し、重装備に乏しかった連隊には、この鉄壁の陣地に対して歩兵による夜襲を繰り返す以外に有効な戦術はありませんでした。しかし、夜間は陣地が更に集約されて強固になり、照明弾が上げられて昼間のような明るさとなり、日本軍の夜襲は文字通り「コンクリートの壁に頭をぶつける」無益な試みとなりました。連隊は多大な損害を被り、攻撃継続が困難となる中、棚橋連隊長は独断で撤退を決断しました。師団長もこれを追認し、連隊は攻撃開始地点まで後退し、体勢を立て直しました。
作戦末期と連隊の壊滅
休養後、連隊は追撃する英印軍に対し、夜襲を駆使してその進撃を遅らせようと試みました。例えば、長井中隊は夜襲で150人もの英印兵を殺傷し、敵野営地に突入して装甲車を撃破、多数の装備品を鹵獲して帰還するなど奮闘しました。連隊は奮戦を続けましたが、英印軍の勢いを完全に止めることはできず、勇戦していた第1大隊長の松木平少佐も戦死しました。そして、常に最前線で指揮を執った棚橋連隊長自身もマラリアに倒れ、連隊長を解任されて後方へ送られ、治療のため日本本土へ帰国することとなりました。
常に最前線で戦い続けた棚橋連隊の損害は甚大で、この第二次アキャブ作戦における戦死者は2,452人に及びました。これは、連隊定数の約8割が失われた計算となり、実質的に玉砕に等しい状況であったと言えます。この作戦において、日本軍全体としては5,335人の損害（うち戦死3,106人）を被る苦戦となりましたが、英印軍にも7,951人の死傷者という多大な損害を与え、アキャブ周辺の防衛という戦略目標は達成されました。連隊はその後もビルマ戦線に留まり、1945年（昭和20年）8月の終戦を迎えるまで激戦を戦い続けました。
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