歴史的城塞都市クエンカ

歴史的城塞都市クエンカ：断崖に築かれた中世の宝石

スペインのカスティーリャ＝ラ・マンチャ州に位置するクエンカは、その旧市街がユネスコの世界遺産に登録されていることで知られています。この都市は、フカル川とウエカル川に挟まれた石灰岩の地形に築かれ、川の浸食作用によって形成された断崖の上にそびえ立っています。

要塞都市から宗教都市へ

クエンカの歴史は9世紀にムスリムによって築かれた要塞に始まります。後ウマイヤ朝時代には要塞から街へと発展し、1177年にはカスティーリャ王国のアルフォンソ8世によって奪取され、キリスト教都市として生まれ変わりました。16世紀まで織物工業を中心に繁栄し、低地に市街地が拡大する一方で、崖の上には宗教的な建造物が集まるようになりました。17世紀には経済的な衰退に見舞われましたが、宗教都市としての発展は続きました。17世紀後半から19世紀にかけては、建物の修復や再建が行われましたが、老朽化した建物が取り壊されることもありました。しかし、20世紀に入ると都市景観の保存の必要性が認識され、1940年代以降には修復作業も行われるようになりました。

旧市街の魅力的な建造物群

登録対象となっているのは、歴史的建造物群が残る旧市街です。その中心となるクエンカ大聖堂は1257年頃に建造され、スペイン最古のゴシック様式聖堂として知られています。大聖堂前のマヨル広場には、16世紀のペトラス修道院や18世紀の市庁舎が並んでいます。大聖堂の近くには司教館があり、フアン・デ・コロニアの祭壇画やエル・グレコの作品を展示する教区博物館が併設されています。他にも、サン・ミゲル聖堂、サン・ペドロ聖堂、エル・サルバドル聖堂など、数多くの宗教建築が残っています。サン・パブロ修道院のように、パラドール（国営ホテル）に改装された建物もあります。

クエンカの代名詞「宙吊りの家」

世俗的な建物の中で最も有名なのは、クエンカの代名詞とも言える「宙吊りの家」(Casas Colgadas)です。14世紀に建てられたこの住居群は、かつて市庁舎として使われたこともありましたが、断崖からせり出すように建てられた奇観から、この名前で呼ばれるようになりました。「宙吊りの家」には、スペイン抽象芸術美術館やレストランが入っています。

世界遺産登録の経緯

クエンカ旧市街は1995年10月2日に世界遺産に推薦され、国際記念物遺跡会議 (ICOMOS) から登録勧告を受けました。1996年の第20回世界遺産委員会で正式に登録され、その価値が世界的に認められました。世界遺産としての正式名称は、英語で「Historic Walled Town of Cuenca」、フランス語で「Ville historique fortifiée de Cuenca」です。

登録基準と普遍的価値

クエンカの世界遺産登録は、以下の2つの登録基準を満たしていると評価されました。

(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
(5) ある文化（または複数の文化）を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。

世界遺産センターは、クエンカが「12世紀から18世紀までの多くの秀逸な宗教的・世俗的な建築物とともに、その本来の都市景観を顕著に手付かずの状態で保存していた中世城塞都市の傑出した例」であると評価しています。また、城壁都市が周辺の農村的・自然的な景観に溶け込み、その価値を高めている点も評価されました。この評価は、ICOMOSが勧告時に示した内容と同じです。

建築物群よりも都市景観

クエンカの魅力は、個々の建造物よりも、むしろ都市全体が織りなす景観にあると言えます。断崖にそびえ立つ都市の姿は、訪れる人に深い感動を与え、中世の歴史を今に伝える貴重な遺産となっています。

この世界遺産は、都市の歴史的発展、独特の地形と建築が調和した景観、そして中世の雰囲気を今に伝える貴重な存在として、世界中の人々を惹きつけています。

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