後ウマイヤ朝

後ウマイヤ朝：イベリア半島に咲いたイスラム文化の華

後ウマイヤ朝（756年 - 1031年）は、イベリア半島（現在のスペイン、ポルトガル）に興ったイスラム王朝であり、ウマイヤ朝の再興を目指した政権です。750年のアッバース革命でウマイヤ朝が滅亡した後、その血を引くアブド・アッラフマーン1世がアンダルスに逃れ、756年にコルドバを首都として王朝を打ち立てました。日本では中国史の用語法を借用して「後ウマイヤ朝」と呼ばれますが、史料では「アンダルスのウマイヤ朝」や「コルドバのウマイヤ朝」などと記述されています。

ウマイヤ朝の再興

アッバース革命後、ウマイヤ家の残党狩りは徹底的に行われましたが、アブド・アッラフマーン1世は奇跡的に生き延びました。彼は所持していた貴金属を資金に変え、北アフリカへと逃れ、母方の血縁を頼ってベルベル人の保護を受けます。金髪に緑色の瞳を持つ彼の容姿はベルベル人に好意的に受け入れられ、彼らの協力を得てウマイヤ朝再興の足がかりを築きました。その後、ジブラルタル海峡を渡ってアンダルスに上陸し、756年のムサラの戦いで勝利を収め、コルドバを首都として後ウマイヤ朝を樹立しました。

文化と繁栄

アブド・アッラフマーン2世の時代には、バグダードから招かれた音楽家ジルヤーブが宮廷で活躍し、ウードの演奏や歌唱で名声を博しました。ジルヤーブは、料理のコース、ガラス製の酒杯、季節ごとの衣服の着替え、髪の手入れ、歯磨きなど、バグダードの洗練された文化をコルドバにもたらし、コルドバは文化的な発展を遂げました。また、クリスタルガラスの製造や金銀細工の技術も発達し、文化の中心地として繁栄しました。

8代目のアミール、アブド・アッラフマーン3世の治世下で、後ウマイヤ朝は経済的な発展を遂げました。929年にはアブド・アッラフマーン3世はカリフを称し、イスラム世界はアッバース朝と後ウマイヤ朝の二つのカリフが並立する時代を迎えました。アブド・アッラフマーン3世とその息子ハカム2世の時代には文化的な発展も遂げ、後ウマイヤ朝はアッバース朝に匹敵するほどの繁栄を謳歌しました。10世紀のコルドバは、西ヨーロッパ最大の都市として繁栄し、人口は50万を下らなかったと推測されています。また、コルドバの西北には壮麗なザフラー宮殿が建設され、宮中には40万巻もの書籍が集められました。

後ウマイヤ朝は、イスラム教徒だけでなく、キリスト教徒やユダヤ教徒も共存する社会を築き、それぞれの文化や宗教を尊重しました。イスラム文明の高度な知識や技術は、土着のイベリア人にも受け入れられ、社会の安定と発展に繋がりました。

衰退と滅亡

しかし、1002年に宰相アル・マンスールが死去すると、後継者争いや豪族間の対立が激化し、内政は混乱しました。29年の間に10人ものカリフが即位するという異常事態となり、王朝は衰退の一途を辿りました。さらに、北方のキリスト教国（アラゴン王国、カスティーリャ王国）によるレコンキスタ（国土回復運動）の圧迫も受け、1031年には最後のカリフ、ヒシャーム3世が廃位され、後ウマイヤ朝は滅亡しました。

滅亡後の影響

後ウマイヤ朝の滅亡後、アンダルス地方は各地の豪族が支配するタイファと呼ばれる小国に分裂し、混乱の時代を迎えました。しかし、後ウマイヤ朝が築き上げた文化や知識は、その後のヨーロッパ社会に大きな影響を与え、ルネサンスの萌芽を育む一因となりました。

後ウマイヤ朝は、短期間ながらイベリア半島に独自のイスラム文化を築き上げ、ヨーロッパの歴史に大きな足跡を残しました。その繁栄と衰退の歴史は、現代社会にも多くの教訓を与えてくれます。

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