死体を売る男

『死体を売る男』（原題：The Body Snatcher）は、1945年に公開されたアメリカ合衆国のホラー映画です。ロバート・ワイズ監督が、ロバート・ルイス・スティーヴンソンの同名短編小説を映画化しました。製作はヴァル・リュートンで、彼は「カーロス・キース」名義で脚本も担当しています。「ショック感覚の決定版！」というキャッチコピーで宣伝された本作は、1828年に実際に起きたバークとヘア連続殺人事件を題材にしています。

物語の舞台は19世紀のエジンバラ。主人公は病院経営と医学生の教育に携わるマクファーレン医師です。解剖用死体の入手が課題となる中、彼は非合法な死体売買に関わっており、辻馬車の御者グレイから死体を闇で仕入れていました。グレイはバークとヘアの仲間であり、墓を荒らして死体を掘り起こす悪名高い男でしたが、マクファーレンはそれを黙認していました。

ある日、マクファーレンは手術に若い女性の死体が必要となり、グレイに依頼します。グレイが持ち込んだ少女の死体を見たマクファーレンの助手フェッツは驚愕します。その少女は、フェッツが前夜にコインを恵んだばかりの街頭歌手だったからです。フェッツからグレイの殺人行為を知らされたマクファーレンは動揺しますが、事件を隠蔽しようとします。

しかし、使用人のジョゼフがこの話を盗み聞きし、グレイを脅迫します。しかし、逆にジョゼフはグレイに殺されてしまいます。この事件を知ったマクファーレンは、グレイを殺害しますが、最後は自身の行った行為の重みに耐えかねて自滅の道を歩みます。

本作は、ボリス・カーロフとベラ・ルゴシという、ホラー映画史上に名を残す二人の名優が共演した最後の作品として知られています。カーロフはRKO Picturesで主演した3本の映画のうちの最初の1本で、続く作品は『吸血鬼ボボラカ』（1945年）と『恐怖の精神病院』（1946年）です。これらの作品のプロデューサーはいずれもヴァル・リュートンでした。

カーロフは、『ロサンゼルス・タイムズ』紙のインタビューで、ユニバーサル・ピクチャーズからRKOに移籍した理由について語っています。ユニバーサルでの成功後、同社はホラー映画路線を推し進め、『フランケンシュタインの館』のような“モンスター・ジャムセッション”映画を制作しました。商業的には成功したものの、カーロフは作品の質に疑問を抱き、契約を更新しなかったと述べています。リュートンはそんなカーロフにとって「リビングデッドから救い出してくれた男」だったと語っています。

『死体を売る男』の製作は『吸血鬼ボボラカ』とほぼ同時に行われ、リュートンは両方の映画の脚本を担当しました。もう一人の脚本家フィリップ・マクドナルドはイギリス人で、推理作家としても知られています。ルゴシもユニバーサルで活躍後、RKOと契約し、本作では小さな役ながら重要な役割を演じています。

監督のロバート・ワイズは、後に『地球の静止する日』（1951年）、『ウエスト・サイド物語』（1961年）、『サウンド・オブ・ミュージック』（1965年）、『砲艦サンパブロ』（1966年）などの名作を監督する巨匠になります。RKOでは長年編集技師として活躍していましたが、本作では前任の監督の遅延により、プロデューサーのリュートンによって抜擢されました。

撮影は1944年10月25日から11月17日に行われましたが、撮影中はリュートンとエグゼクティブプロデューサーのジャック・J・グロスの間に予算を巡る緊張が走ったと伝えられています。日本では2013年に「エドガー・G・ウルマーとゆかいな仲間たち」で劇場初公開されましたが、それ以前から『死体を盗む男』のタイトルでテレビ放映され、NECアベニューからビデオも発売されていました。本作は、死体売買という暗いテーマと、人間の業を描きながらも、名優たちの演技と、社会問題への鋭い視点を兼ね備えた、忘れがたいホラー映画と言えるでしょう。

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