殉教者聖ペテロと聖ニコラウス、聖ベネディクトゥス

『殉教者聖ペテロと聖ニコラウス、聖ベネディクトゥス』は、イタリア・ルネサンス期のヴェネツィア派を代表する画家、チーマ・ダ・コネリアーノが1505年から1506年にかけて制作した油彩画です。この作品は、ジョヴァンニ・ベッリーニの「聖会話」の構図を参照しつつ、ジョルジョーネの革新的な風景描写を取り入れた、画家の円熟期を代表する傑作として知られています。現在はミラノのブレラ美術館に所蔵されています。

この絵画は、香料商人のベネデット・カルローネの依頼により、ヴェネツィアのコルプス・ドミニ教会内の殉教者聖ペテロに捧げられた礼拝堂の祭壇画として制作されました。カルローネは、この礼拝堂を自身の埋葬場所とすることを計画しており、聖ペテロが描かれているのは、礼拝堂が彼に奉納されていたためです。また、聖ベネディクトゥスが描かれているのは、依頼主であるベネデットの名前にちなんでいます。画面左側には聖ニコラウスが描かれており、彼が貧しい娘たちの結婚資金として与えた金の球を手にしています。

絵画の中心には、殉教の際に鎌で殴打された聖ペテロが、ドミニコ会修道士の衣服を身に着け、田園風景を見下ろす高台に立っています。画面下部には、羊飼いが犬の前で音楽を奏で、騎士が従者に導かれて進む様子が描かれています。また、教会の傍らで二人の人物が会話しており、遠景には村と城壁に囲まれた都市が望めます。左右対称の構図は色彩の点でも均衡がとれており、ジョルジョーネの新しい色彩表現に対するチーマ・ダ・コネリアーノの関心を示唆しています。

この作品は、チーマ・ダ・コネリアーノがヴェネツィア派の伝統的な構図と、ジョルジョーネの影響を受けた自然主義的な描写を融合させたことを示す好例です。聖人たちの厳かな姿と、日常の風景が巧みに組み合わされており、鑑賞者に深い印象を与えます。作品に描かれた情景は、ルネサンス期のヴェネツィアの豊かな生活と信仰心を伝えています。

歴史的な背景として、この絵画が奉納されたコルプス・ドミニ教会は、ナポレオンによるイタリア占領時代に廃止されました。その後、絵画は1811年にブレラ美術館に収蔵され、現在に至ります。この作品は、チーマ・ダ・コネリアーノの芸術的才能を今に伝える貴重な文化遺産として、世界中の美術愛好家から愛されています。

絵画の卓越した技術は、ルネサンス期のヴェネツィア絵画の発展を語る上で欠かせない要素です。チーマ・ダ・コネリアーノは、繊細な筆致と鮮やかな色彩を用いて、聖人たちの内面と、彼らが立つ風景の美しさを際立たせています。本作は、宗教的なテーマを、人間的な感情と自然への畏敬の念とともに表現した、ルネサンス美術の傑作と言えるでしょう。

ブレラ美術館に訪れた際には、ぜひこの作品を間近で鑑賞し、チーマ・ダ・コネリアーノの芸術的な才能を感じてみてください。その美しい色彩、調和のとれた構図、そして絵画に込められた深い物語に、きっと魅了されることでしょう。


参考文献:
『ブレラ　絵画館全作品ガイド』、SCALA、1977年　ISBN 978-888117680-9
岡田温司監修『「聖書」と「神話」の象徴図鑑』、ナツメ社、2011年刊行　ISBN 978-4-8163-5133-4

外部リンク:
* ブレラ美術館公式サイト、チーマ・ダ・コネリアーノ『殉教者聖ペテロと聖ニコラウス、聖ベネディクトゥス』 (英語)

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