残留ロシア人 (南樺太)

残留ロシア人：樺太における異質な存在の軌跡

残留ロシア人とは、日露戦争後のポーツマス条約によってロシア帝国から日本へ割譲された南樺太に、そのまま住み続けた旧ロシア帝国国民を指します。ただし、先住民族は除きます。彼らはどのような経緯で南樺太に残り、どのような生活を送ったのでしょうか。

南樺太割譲と残留ロシア人の発生

1905年、日露戦争における樺太の戦いで日本軍が樺太全土を占領。同年締結されたポーツマス条約により、南樺太は日本に割譲されました。この時、南樺太に住んでいたロシア国民は、残留するか、北樺太やロシア本土へ引き揚げるかの選択を迫られました。多くの人々が引き揚げを選びましたが、約200人弱の少数派が残留を決意。これが残留ロシア人の始まりです。

日本統治下での生活

財産権が保証された残留ロシア人は、以前と変わらない生活を送ることができました。彼らの多くは自家製のパンを焼き、「ロシアパン」と名付けて駅前で販売。このロシアパンは樺太土産として人気を博し、その売り声は樺太の風物詩となりました。

やがて、残留ロシア人は日本人社会に溶け込んでいきました。子供たちを日本人学校に通わせ、日本語を習得させました。また、日本人が経営する企業や商店で働く者、日本人相手に商売をする者も現れました。

1917年のロシア革命後には、白系ロシア人が日本統治下の南樺太へ亡命して定住するケースも見られました。1905年以前から住む残留ロシア人と、革命後に亡命してきた白系ロシア人は、日本人から区別されることなく、同じ「ロシア人」として認識されることが多かったようです。

第二次世界大戦とソ連による占領

第二次世界大戦後半になると、戦況悪化に伴い、南樺太のロシア人は敵性外国人として日本政府の監視・拘留の対象となりました。

1945年8月、ソ連対日参戦により赤軍が南樺太に侵攻。ソ連が南樺太を占領すると、残留ロシア人の多くは共産化によって財産を失い、政治犯として処分された者もいました。ソ連統治下では、彼らは無国籍者として扱われ、1950年代までソ連国籍の取得が認められませんでした。

当初、樺太には40万人以上の日本人がいたため、日本語とロシア語に通じる残留ロシア人は通訳として重宝されました。しかし、1948年までに日本人が日本へ引き揚げると、樺太ではロシア化が進み、日本語が不要な社会へと変貌。南樺太に住んでいたロシア人は、ソ連領内から移住してきた多数の新住民と同化していきました。

現在

日本統治下の南樺太で日本語を話して生活していたロシア人は、現在もロシアに存在しますが、時代の流れとともにその世代は減少しています。

その出自

残留ロシア人には、ロシア民族だけでなく、ポーランド人やウクライナ人も含まれていました。彼らは無国籍でしたが、ポーランド人については、1918年に独立したポーランド政府から国籍が付与され、樺太在住のポーランド人として扱われるようになりました。1945年のソ連占領後、南樺太在住のポーランド人42名はポーランド国籍を取得し直し、1948年に祖国ポーランドへ帰国しました。

残留ロシア人は、激動の時代の中で、異質な存在として独自の歴史を刻んだのです。

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