残酷・異常・虐待物語 元禄女系図

『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』は、1969年に公開された石井輝男監督による日本映画です。この作品は、R-18指定（後にR15+へ変更）を受けた成人映画であり、その過激な描写から、公開当時大きな話題を呼びました。

概要

本作は、石井輝男監督が「異常性愛路線」と称されるエログロ映画群の中で制作した4作目にあたります。前作『徳川女刑罰史』と同様に、3つの独立した物語で構成されたオムニバス形式を採用しており、各話でエロティシズムと残虐性が強調されています。また、本作から石井作品に欠かせない存在となる脚本家の掛札昌裕が初参加し、石井監督との名コンビが誕生しました。驚くべきことに、この作品は1969年の東映正月映画の第二弾として公開されました。

あらすじ

物語は、医師である玄達（吉田輝雄）が語り手となり、三つの異なる時代と境遇の女性たちの悲劇を描きます。

「おいとの巻」: ヤクザに騙され、吉原の遊女に身を落としながらも、なお男への愛を求める町娘おいと（橘ますみ）が、拷問の末に命を落とす悲劇。
「おちせの巻」: 見世物小屋で働く片輪者を弄び、倒錯した性愛に耽溺する豪商の娘おちせ（葵三津子）が辿る末路。
「おみつの巻」: 妊婦の腹を裂く、全裸の女性に金粉を塗って窒息させる、裸の腰元を牛の群れの中に放つなど、鬼畜の限りを尽くす暴君（小池朝雄）の悪行と、その報い。


これらの物語は、エロティックな描写と残虐な表現が交錯し、観る者に強烈な印象を与えます。

キャスト

玄達：吉田輝雄
半次：山本豊三
おいと：橘ますみ
きぬ：木山佳
八重垣：カルーセル麻紀
小菊：三笠れい子
雛菊：丘そのみ
おせい：南風夕子
おしの：沢淑子
熊五郎：蓑和田良太
虎吉：山本昌平
猪之助：林彰太郎
料亭の客：小島慶四郎
若衆A：唐沢民賢
若衆B：五十嵐義弘
男：村田博
御大尽：上田吉二郎
おちせ：葵三津子
長吉：石浜朗
小人：若狭伸
黒人：ジム・Ｍ・ヒューズ
片眼の男：沢彰謙
人足：滝譲二
相撲とり：大蛇川
婆や：牧淳子
正親：小池朝雄
おみつ：尾花ミキ
お紺：賀川雪絵
弓岡：阿井美千子
藤島：田中美智
貝原：中村錦司
木樵：矢奈木邦二郎
村娘：高木恵子
近習：山下義朗
暗黒舞踏：土方巽

スタッフ

監督：石井輝男
企画：岡田茂、天尾完次
脚本：石井輝男、掛札昌裕
撮影：吉田貞次
音楽：八木正生
美術：鈴木孝俊
照明：中山治雄
編集：神田忠男

企画の背景

本作は、東映の岡田茂本部長が企画した「性愛路線」の第一弾として制作されました。岡田は、石井輝男監督の才能を高く評価しており、彼に「異常性愛路線」という独自の企画枠を与えていました。当初、岡田は歴史上の毒婦を題材にした「実録猟奇犯罪もの」を構想していましたが、最終的に本作のようなオムニバス形式の作品に落ち着きました。当時の東映は、ヤクザ映画路線が主流でしたが、岡田と石井は新たな活路を求めて、過激なエログロ路線に挑戦しました。しかし、この路線は当時の主演級女優には不評で、出演を拒否されることもありました。

タイトルとポスター

本作を含む当時の東映のエロ映画のタイトルは、その過激さから、映画関係者や観客から「センスがない」と酷評されました。街には過激なポスターが大量に貼られ、女優たちは次々と登場する刺激的なタイトルに不安を抱いていたと言われています。一部のマスコミからは「東映の女優には、今どんな作品に出演しているかを聞くのは思いやりだ」と言われるほどでした。これらの過激なタイトルは、岡田茂の命名によるものが多かったとされています。

脚本

脚本は、掛札昌裕が石井輝男監督と共同で執筆しました。掛札は、助監督時代からその才能を認められ、天尾完次プロデューサーに抜擢されました。最初の打ち合わせは、『徳川女刑罰史』の撮影現場で行われ、三笠れい子が刺青を受けている横で行われたという逸話が残っています。掛札は、オムニバス形式の方が見せ場を作りやすいと考え、3つの物語のプロットを考案し、石井監督の了承を得て脚本を執筆しました。特に、第三話の腹を裂いて胎児を取り出すシーンは、掛札自身もボツになると思っていたが、石井監督が気に入り、本編に採用されたというエピソードがあります。

キャスティング

岡田茂は、東映の専属女優を脱がせることに執念を燃やしており、『温泉あんま芸者』で脱がされた橘ますみは、本作で石井監督に口説かれて脱ぐことになりました。橘は「女優として割り切って脱いだ」と語っていますが、家族や親戚からは大反対を受け、脱ぐことを家族に知らせないまま撮影に臨んでいたというエピソードがあります。葵三津子は、脚本を担当した掛札昌裕の妻で、本作出演後、掛札と交際を始めました。葵は、女優として売れることを強く望んでおり、脱ぐことにも抵抗がなかったと言われています。暗黒舞踏の創始者である土方巽は、週刊誌の記事を見た石井監督に招かれ、本作に出演しました。土方は、撮影現場で鶏を咥えて踊り、東映のスタッフを驚かせたというエピソードが残っています。カルーセル麻紀は、花魁役として出演し、当時抱えていた悩みを明かしています。

作品の評価

公開当時、マスコミからは「下品なハレンチ映画」と酷評されました。興行収入も1億5000万円と低迷しました。しかし、泉大八は「第一話で死んだ花魁が溝に捨てられる場面が印象的」と評価し、山本晋也は「独立プロとは規模が違う」と述べ、高橋鐵は「カルーセル麻紀の姿には感心したが、欲張りすぎる映画だ」と評しました。

ソフト化

2017年10月、石井輝男監督の13回忌追悼企画として、本作は『やくざ刑罰史 私刑!』、『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』と共に初のDVD化を果たしました。

まとめ

『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』は、その過激な内容から賛否両論を呼んだ作品ですが、石井輝男監督の「異常性愛路線」を代表する作品として、映画史にその名を刻んでいます。エロティックな描写と残虐な表現が交錯する、異色の時代劇として、現在でも一部の映画ファンから熱狂的な支持を集めています。

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