母音交替

母音交替：言語における母音の変化と多様な役割

母音交替とは、単一の言語内において、母音の変化によって単語の意味や文法的機能が変化する現象を指します。この変化は、単語の派生、文法上の活用や格変化、あるいは他の語との結合など、様々な文脈において起こり得ます。世界各地の多様な言語に見られる普遍的な言語現象であり、その種類によっては母音変異と呼ばれることもあります。

母音交替は、大きく分けて二つの側面から捉えることができます。一つは、文法的な機能を担う母音交替で、これは接辞の母音変化と語幹内部の母音変化に分類されます。接辞の母音変化は、語尾や接頭辞などの付加によって母音が変化する現象を指し、語幹内部の母音変化は、語幹自体に含まれる母音が変化する現象を指します。もう一つは、歴史的な視点からの母音交替で、これは異なる言語や方言間で対応する単語の母音に違いが見られる現象を指します。これは、言語の歴史的な変化、つまり母音推移によって生じた違いです。

母音交替の具体的な例

日本語では、動詞の活用に母音交替が見られます。例えば、五段活用、カ変活用、サ変活用などの語尾変化は、母音交替の一種と捉えることができます。古語や一部の方言では、上二段活用や下二段活用においても語幹母音の交替が見られます。名詞においても、独立形と接続形（合成語を形成する場合）で語尾の母音が異なる例が多く存在します。例えば、「風上」のかざかみ、「木立」のこだち、「惟神」のかむながらなど、接続形では語尾に接尾辞「イ」が付加され、融合して独立形とは異なる母音となる例が挙げられます。数詞においても、「一つ」から「十」までの和語の数詞の一部には、母音交替によって2倍の数詞を示すものがあります（例：ヒ（1）−フ（2）、ミ（3）−ム（6）、ヨ（4）−ヤ（8）、イツ（5）−ト（10））。

母音調和も母音交替の一種です。モンゴル語やトルコ語などでは、助詞や接尾辞の母音が語幹の母音に合わせて変化する現象が見られます。現代朝鮮語の活用語尾にも同様の現象が見られます。

インド・ヨーロッパ語族の言語では、動詞の活用や名詞の数・格変化において、語尾の変化に伴って母音も変化することがあります。語幹の母音が変化する現象も多く見られ、これはウムラウトとアプラウトに分類されます。ウムラウトは、語尾の母音の影響を受けて母音が変化する現象で、英語のmouse→mice、foot→feetなどの不規則名詞の複数形がその例です。アプラウトは、インド・ヨーロッパ祖語にまで遡る古い現象と考えられており、英語のsink→sank, sunk、sit→satなどの不規則動詞の活用に見られます。ウムラウトは母音変異とも呼ばれ、アプラウトという用語で母音交替全般を指す場合もあります。

セム語族の言語、例えばアラビア語やヘブライ語では、動詞の過去形と現在形の語幹母音にアプラウトと見なせる違いが見られます。古典アラビア語では、多くの他動詞でa/uまたはa/iの母音交替があり、再帰動詞や自動詞ではi/aの母音交替が見られます。

擬音語・擬態語においても母音交替は存在します。日本語では同じ母音の繰り返しが多いですが（カリカリ、ゴトゴトなど）、英語などでは母音を変えて繰り返す例が多く見られ（Flip-flop、Tick-tackなど）、これはアプラウト的な重畳と言えます。

母音交替は、言語の構造や歴史を理解する上で重要な要素であり、その多様性と普遍性は、言語研究において継続的に注目を集めるテーマです。

もう一度検索