毎月勤労統計調査

毎月勤労統計調査の詳細解説

毎月勤労統計調査は、日本の雇用、給与（賃金）、労働時間の現状とその変化を明らかにするために、厚生労働省が実施している基幹統計調査です。この調査は、全国調査、地方調査、特別調査の3種類で構成され、それぞれ異なる規模の事業所を対象としています。調査結果は、景気変動を把握するための経済指標として活用されるほか、国民経済計算や社会保険の給付額の算定など、多岐にわたる分野で重要な役割を果たしています。

調査の概要

この調査は、1923年に始まった調査を前身とし、幾度かの変遷を経て、現在の形に整えられました。全国調査と地方調査は、常用労働者を5人以上雇用する事業所を対象とし、毎月実施されます。特別調査は、これらの調査に含まれない小規模な事業所を対象として、年に一度行われます。

調査項目は、事業所の常用労働者数、出勤日数、労働時間、給与などが含まれており、これらのデータは労働市場の動向を分析する上で欠かせません。また、これらの統計は、前年同月比、前月比、季節調整済み前月比などの形で公表され、景気動向を迅速に把握するために利用されます。

調査の種類

全国調査

全国調査は、日本全国の常用労働者を5人以上雇用する事業所を対象に毎月実施される調査です。この調査は、雇用、賃金、労働時間に関する基本的な情報を収集し、全国的な労働市場の動向を把握するために利用されます。

地方調査

地方調査は、各都道府県が独自に対象事業所を追加して実施する調査です。全国調査と同様の項目を調査しますが、地域ごとの特性をより詳細に把握することが可能です。地方調査の結果は、各都道府県の労働政策や経済分析に役立てられています。

特別調査

特別調査は、全国調査と地方調査の対象とならない小規模な事業所（常用労働者4人以下）を対象に、年に一度、7月分のデータについて実施されます。この調査では、個々の労働者の属性（性別、年齢、勤続年数など）と労働条件が詳細に調査されます。特別調査の結果は、小規模事業所における労働実態を把握する上で重要な役割を果たしています。

調査方法

全国調査と地方調査では、主要な項目として、事業所の常用労働者数、出勤延べ日数、実労働時間数、現金給与総額などが調査されます。これらの項目について、常用労働者全員分、男女別、パートタイム労働者分を回答する形式が用いられます。特別調査では、常用労働者一人ひとりの属性や労働条件を記入する方式が採用されています。

調査対象は、日本標準産業分類に基づく16大産業の事業所です。民営事業所だけでなく、公営であっても公務ではない事業（教育、医療、交通など）も含まれます。ただし、船員法に規定される「船員」は調査対象外です。

常用労働者を500人以上雇用する事業所は、2019年6月以降、すべて毎月調査されています。30-499人規模の事業所については、ローテーション・サンプリング方式により、毎年1月に部分的に入れ替えが行われます。29人以下の規模の事業所については、経済センサス調査区を基にした層化抽出により選定されます。

調査の実施体制

厚生労働省が調査対象事業所の選定と調査の手引き作成を担当し、実際の調査業務は各都道府県が実施します。30人以上規模の事業所は郵送による調査、29人以下規模の事業所は統計調査員による訪問調査が基本ですが、インターネットでの回答も可能です。市販の給与計算ソフトで作成した調査票を提出することもできます。

統計法の規定

統計法によれば、基幹統計の作成に必要な事項について報告を求められた個人、法人、その他の団体は、これを拒否したり、虚偽の報告をしたりすることは禁じられています。個人情報保護を理由とした報告拒否も認められていません。この規定に違反した場合、50万円以下の罰金が科せられることがあります。

調査の特徴

事業所調査としての特徴

毎月勤労統計調査は事業所を対象とする調査であるため、賃金台帳や人事記録に基づいた正確な情報が得られると考えられています。しかし、企業が把握していない情報、例えばサービス残業や裁量労働制が適用される労働者の労働時間などは、回答が不正確である可能性があります。また、一人の労働者が複数の事業所に勤務している場合、重複してカウントされることもあります。

水準統計としての特徴

毎月勤労統計調査は、雇用、賃金、労働時間などの水準を全国または都道府県別に測定することを目的としています。このため、各種社会保険の給付額や国民経済計算における雇用者報酬の算出に使われるなど、水準統計として重要な役割を担っています。ただし、個別の労働者の状況よりも、労働者全体の状況を把握することに主眼が置かれています。

動態統計としての特徴

毎月勤労統計調査は、毎月調査を行い、速やかに集計して公表する体制をとっています。速報値は翌々月初旬に、確報値は月末までに公表されます。これにより、最新の経済・労働動態を迅速に把握することが可能です。賃金動向に対する関心が高まる中、この調査の重要性はますます増しています。

活用事例

毎月勤労統計調査の結果は、学術研究や政策立案の基礎データとして利用されるほか、国際労働機関（ILO）や経済協力開発機構（OECD）にも定期的に送付され、国際比較に用いられています。国内では、最低賃金、人事院勧告、公共工事設計労務単価、失業給付、平均賃金、労働災害の休業補償額、労災保険の給付額、国民経済計算、景気動向指数など、様々な行政分野で活用されています。

技術資料

調査対象事業所の選定、調査項目、調査の実施、集計と推計の方法、標本誤差の推定と評価などの詳細な情報は、報告書、公式ウェブサイト、その他の資料から入手可能です。全国調査、地方調査の結果をまとめた『毎月勤労統計調査年報』、地方調査の結果をまとめた各都道府県の報告書、『毎月勤労統計調査特別調査報告』などが発行されています。厚生労働省の公式ウェブサイトでは、調査の概要が確認できますが、過去の情報を一覧できるアーカイブは提供されていません。

調査結果データ

毎月の全国調査、地方調査の結果は速報と確報の形で発表されます。内容は賃金、労働時間、常用雇用、労働異動などであり、実数、指数、前年比などが、定型のフォーマットで産業別に示されます。特別調査の結果は、年1回発表されます。これらのデータは、「政府統計の総合窓口」(e-Stat) にも収録されており、ダウンロードが可能です。

ミクロデータ利用

統計法に基づき、集計表を作成する前のミクロデータを利用する方法も用意されています。調査票情報の利用や、委託による統計の作成が可能ですが、匿名データの作成・提供は行われていません。

用語解説

事業所

- 第一種事業所: 常用労働者を30人以上雇用する事業所。
- 第二種事業所: 常用労働者を5-29人雇用する事業所。
- 特別調査事業所: 常用労働者を1-4人雇用する事業所。

労働者

- 常用労働者: 雇用契約期間の定めがないか、1か月以上の雇用契約がある労働者。
- パートタイム労働者: 所定労働時間や所定労働日数が一般労働者よりも短い労働者。
- 一般労働者: 常用労働者のうち、パートタイム労働者以外の労働者。

賃金

- きまって支給する給与: 労働協約や就業規則で定められた基準によって支給される給与。基本給、家族手当、超過労働手当など。
- 所定外給与: 所定労働時間を超える労働、休日労働、深夜労働に対して支給される給与。時間外手当、休日出勤手当、深夜手当など。
- 所定内給与: きまって支給する給与のうち、所定外給与以外のもの。
- 特別に支払われた給与: 夏冬の賞与、一時金、ベースアップの差額追給など。
- 現金給与総額: きまって支給する給与と特別に支払われた給与の合計額。

労働時間

- 実労働時間数: 実際に労働した時間（休憩時間を除く）。
- 所定内労働時間: 労働協約や就業規則で定められた正規の始業時刻から終業時刻までの間の実労働時間数。
- 所定外労働時間: 早出、残業、休日出勤などの実労働時間数。
- 総実労働時間: 所定内労働時間と所定外労働時間の合計。
- 出勤日数: 実際に出勤した日数。

サンプリング

- 標準誤差率: 標準誤差を平均値で割ったもの。
- 目標精度: 標準誤差率が産業・事業所規模別に一定の範囲となるように設定される目標。
- 抽出率: 調査対象になりうる事業所のうち、実際に調査対象として抽出される事業所の割合。
- 系統抽出: 調査対象を一定間隔で抽出する方法。
- ローテーション: 調査対象事業所を一部ずつ入れ替える方法。
- 抽出区分: 事業所規模と産業を掛け合わせてできる区分。
- 調査区: 29人以下の事業所を抽出するために設定される地理的区分。
- 現況調査: 調査区内の事業所リストを作成する作業。

集計と母集団推定

- 集計区分: 事業所の規模と産業を掛け合わせてできる区分。
- 抽出率逆数: 集計時に各事業所の抽出率の逆数で重み付ける作業。
- 調査数値: 各集計区分で計算された各種数値（労働者数、賃金合計額など）。
- 推計母集団労働者数: 各集計区分に属する常用労働者の母集団における推計値。
- リンク･リラティブ法: 推計母集団労働者数を求める方法。
- 推計比率: 推計母集団労働者数を、労働者数合計の調査数値で割った値。
- ベンチマーク更新: 推計母集団労働者数を実態に合わせるための調整。

公表値

- 実数: 労働者、平均賃金、平均労働時間などを母集団について推計した値。
- 原表: 実数を一定のフォーマットで整形したもの。
- 指数: 特定時点の実数を基準として、それ以降の実数の推移を相対的な値で表したもの。
- 季節調整値: 季節的な変動パターンを除去した値。
- 遡及改訂: データが不連続になった場合に、連続性を確保するための修正。
- 共通事業所集計: 当月とその1年前との両方のデータが揃う事業所のみを対象とした集計。
- 再集計値: 過去の不適切な集計方法を修正した値。
- 抽出調査系列: 東京都とそれ以外との抽出率の差を考慮した集計値。
- 時系列比較のための推計値: データが不足していた期間について推計した値。
- 給付のための推計値: 雇用保険などの給付額を過去に遡って改訂するための便宜的な値。
- 従来の公表値: 再集計がおこなわれる前に公表されていた値。

歴史

毎月勤労統計調査は、1923年に始まった「職工賃銀毎月調査」「鉱夫賃銀毎月調査」を前身とし、1944年に全国的な調査として開始されました。戦後、GHQの指令によって調査が再開され、1948年に労働省の管轄に移りました。1950年からは、無作為抽出による標本調査となり、1957年には5-29人規模の事業所を対象とする調査が開始されました。1970年に特別調査が毎年実施されるようになり、1990年には全国調査と地方調査が統一され、現在のような形となりました。

統計不正調査問題

2018年末に、500人以上規模の事業所を全数調査するという規定に反し、実際には東京都の一部で抽出調査が行われていたことが発覚しました。この問題に関連して、統計処理の不適切さ、調査対象事業所数の削減、資料の廃棄などが明らかになり、政府統計への信頼が大きく揺らぎました。過去のデータは一部再集計され、「推計値」として公表されましたが、統計制度全体の改善が求められるきっかけとなりました。

再集計と雇用保険等再給付

統計不正発覚後、厚生労働省は過去のデータを再集計し、雇用保険などの給付額を修正しました。この結果、延べ2000万人に対して約600億円の支払い不足が確認され、追加給付が行われました。

論評

毎月勤労統計調査の不正問題は、統計の真実性の侵害、行政手続き上の逸脱、予算と人員の負担、統計担当部局の能力低下、公的統計制度の欠陥、政府の隠蔽体質など、さまざまな問題を提起しました。特別監察委員会の報告書に対しては、委員構成、調査方法、結論の妥当性などについて、多くの批判が寄せられています。今後の統計制度の改善に向け、これらの問題を詳細に分析し、対策を講じることが不可欠です。

時系列

この文書では、調査開始から不正問題発覚、その後の対応まで、詳細な時系列を記載しています。

まとめ

毎月勤労統計調査は、日本の労働市場の動向を把握する上で欠かせない重要な統計調査です。その結果は、経済指標、政策立案、社会保険給付額の算定など、多岐にわたる分野で活用されています。過去の不正問題を踏まえ、統計の信頼性を確保するための不断の努力が求められています。

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