比治山貝塚

比治山貝塚：縄文時代の生活を今に伝える貴重な史跡

広島市南区比治山にある比治山貝塚は、縄文時代後期から晩期にかけての貝塚であり、1950年に広島県の史跡に指定されました。約2000年前の縄文人の生活を知る上で重要な遺跡です。

概要

比治山貝塚は、比治山の南麓に位置し、広島市内では東区中山にある中山貝塚と並び著名な貝塚として知られています。明治時代以降、比治山一帯は陸軍の施設として利用され、貝塚の存在は大正時代から確認されていましたが、発掘調査は困難でした。1932年の陸軍による拡張工事の際に初めて遺物が出土し、戦後、広島大学教授の松崎寿和らによって本格的な発掘調査が行われました。

戦時中の軍事施設拡張により、貝塚の主要部分は破壊されましたが、発掘調査によって貴重な遺構や遺物が発見されています。現在は案内板が設置されているのみで、貝塚自体は埋め戻されています。

出土品

貝塚は、一番下の縄文土器を含む層の上に、3つの貝層が重なる構造でした。貝殻の70%はハマグリで、上層に行くほどアサリが減少し、ハイガイが増加する傾向が見られました。これは、時代が下るにつれて海水が濃くなったことを示唆しています。出土した土器の文様から、貝塚は縄文後期から晩期にかけて形成されたと考えられています。また、四国や山口県東部産の安山岩で作られた石器も出土しており、当時の広範囲な交流を示す証拠となっています。

主な出土品は、縄文土器、石器、貝殻、動物の骨などです。これらの出土品は、現在広島大学文学部文学研究科考古学研究室に保管されています。

立地

比治山貝塚と中山貝塚の位置関係から、縄文時代には比治山が広島湾内の島であったことがわかっています。貝塚は海岸線付近の標高10mに位置し、縄文後期までは完全に海に面していました。縄文晩期になると、太田川の土砂堆積によって干潟が形成され、比治山は部分的に本土と陸続きになりました。当時の人々は、漁や狩猟によって生計を立てていたと考えられています。比治山貝塚からは弥生時代の遺物は出土していませんが、これは弥生時代になると稲作に適した土地へ人々が移動したためと考えられています。比治山の南側が完全に陸地となったのは、広島城築城以降の江戸時代中期に行われた干拓による土地開発によるものです。

交通

バス: 「出汐町バス停」下車、徒歩5分
広島電鉄: 皆実線「南区役所前停留場」下車、徒歩約15分

まとめ

比治山貝塚は、縄文時代の広島湾の地形や、当時の人々の生活を知ることができる貴重な遺跡です。出土品や貝層の分析から、当時の自然環境や人々の生活様式、交流範囲などが明らかになりつつあります。現在、貝塚は埋め戻されていますが、案内板が設置されており、その歴史を偲ぶことができます。

参考資料

『比治山をめぐる郷土誌』（段原公民館郷土誌クラブ、1985年）

関連項目

日本の貝塚一覧
広島県指定文化財一覧

外部リンク

広島大学考古学研究室

もう一度検索